エピローグ

場所は変わって何処かの人知れぬ小さな孤島。そこでは満点に輝く星の下、ぱちぱちと音を立てて燃える小さな焚火を囲んで2人の男女が何やら話し合っていた。

「ねぇ、いい加減機嫌直したら?」
「…………」
「もう、仕方ないんだから。いくらなんでもそんなに拗ねなくてもいいじゃない」
「…………」

男の方―――ラドンは目の前で、涙目になってむくれている女性―――ナ・キカに突然「ちょっと付き合うのです」と言われ、彼女に導かれるまま此処までやってきたものの、当の彼女は先程からずっと失恋でもしたかのような落ち込み具合である。
ラドンは溜息をつきながら持ち込んでいたテキーラをショットグラスで一つ呷ると、頑なに口を噤んだままの彼女に言葉を続ける。

「陛下の淫魔姿をギドラに横取りされたからって、そんなに凹む事ないでしょう? まさかアタシもあの場に奴がいたなんて、全然気づかなかったわよ」
「……はぁ」

ラドンがゴジラの下から去り、この島で待機していたナ・キカに「陛下は今頃あの水着を着ているわよ」と教えたところ、意気揚々と向かった先で待ち受けていたのはなんと、既にゴジラがギドラによって貫かれている真っ只中だったという訳だ。
ギドラの前に成す術もなく追い払われて泣く泣く帰ってきたナ・キカからその事を聞いた時には、ラドンはかつての主に逆らう恐怖はありながらも元は自分が切っ掛けという手前、勇気を振り絞ってゴジラを助けに一目散に例の場所へ駆けつけたが、着いた頃には既にその当事者は離脱しており、残されたのは鼻を覆いたくなる程の白濁の匂いと甘ったるい香りに包まれ、普段羽織っている黒いケープを纏ったまま全裸で気絶している白濁塗れのゴジラと、その側で無残な布切れと化し無造作に落ちている件のビキニだった。
その後はできる限り介抱したものの、正気を取り戻したゴジラに「独りにしてくれ」とにべになく追い払われ、仕方なくナ・キカと合流し今に至る。

「そりゃあアタシだって陛下のあんな姿見た時は吃驚したけどさぁ…でも女王にバレたらタダじゃ済まないし? そもそも陛下は彼奴にあれだけ酷い目に遭わされても自害する程、ヤワなお方じゃないもの」
「それは分かってるです」

ナ・キカは涙を拭いようやく口を開くと、手にしていたショットグラスに注がれている酒を一気に飲み干す。そしてぷはーっと一息つくと、「だけどねぇ…」と続けた。

「とっても悔しいのですよ。私が一番乗りで王のえっちな御姿を見たかったのにぃ~!!」
「まぁ確かにねぇ。アンタの念押しがなきゃ、アタシも是非見たかったわ」
「それにギドラの奴! 私に対して『君にも憑くかもしれぬから立ち去れ』だなんて、ほんと信じられないです! 王に献上したとっておきの水着は台無しにするし、せめてアイツに加勢する形でも良いからこの自慢の触手で王に絡みついて扱いて、トロトロになった所を直接舐めしゃぶって吸い付いて搾り出したかったのにぃー、です!」

地団駄を踏むかのように頭部から生えた触手を何度も地面に打ち付け、成人しているとはいえ幼い外見とかけ離れた卑猥な悪態を喚いて悔しがるナ・キカに「何としてでも混ざりたかったのね」と心中で呆れつつ、ラドンは空になった彼女のグラスに再びテキーラを注ぎ入れる。

「ま、過ぎた事を嘆いててもしょうがないわ。陛下はあれからタイタン不信拗らせて自宅に籠っちゃったし、女王も事情を知ってるアタシを探し回ってるみたいだし……アンタも気を付け「見つけましたよ、ラドン」

虚空から声がした、と思いきや辺り一面に眩い虹のオーロラが煌々と降り注ぎ、ラドン達を青白く染める。
噂をすれば何とやら、件の女王が美しい蝶の如し羽を広げつつ、しかしその表情は怒り心頭に満ちている。ラドン達がわざわざ光源の方を見なくても、その憤怒具合はこちらにも伝わるほど判った。

「終わったわね、アタシ達」
「……ですね」

酔いがすっかり醒めた二人は顔を見合わせると揃って溜息をつく。どうやら今こそ年貢の納め時らしい。

その後ナ・キカはモスラに厳しく事の発端を問い質されて最初はすっとぼけた態度を取っていたものの、女王の気迫の前に怯んでしまい呆気なく号泣のち洗いざらい真相を吐かされ、ラドンに至っては「ナ・キカに頼まれて」と弁明したものの、何故頑として断らなかったという明目で長々と説教を受ける羽目になり、更には罰として一週間もの間ゴジラへの接触及び禁酒を言い渡されたという……。

 

 


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