暴龍乃決意‐三魔獣怪獣島襲撃‐ 1

「‐」世界、2010年・10月―――

 

「ゴジラ!今、奴は弱ってる!その隙に熱線でとどめを差すんだ!」

志真の言葉にゴジラは深追いを止め、背びれを青く光らせる。
ウルフォスは体を震わせながら何とか立ち上がるも、時既に遅し、ゴジラは口から熱線を発射した後だった。
最後の力を振り絞り、ウルフォスは熱線を横飛びでかわすが、熱線はウルフォスの後を追い、そのまま直撃した。

ウォアアアン…!

 

「モスラ!アクア体になって!冷たい一撃で、熱い魔獣を貫くの!」

モスラは体を地上へ向けると、口から水流の光線「水波砲」を放った。
まるで槍の様に鋭い光線は真っ直ぐ、かつ容易くイーブルスの胸を貫く。
凄まじい一撃にイーブルスは悲鳴を上げるが、モスラは更に体を回転させて気流のバリア「流防陣」を纏うと、そのままイーブルスへと突っ込んだ。

ピャウウウウ…!

 

「バラン…山神と呼ばれたお前なら出来る筈だ。その悪しき魔獣を倒してみせろ…!」

もう抵抗する力も無いのか、ホーエンスは無力に空中へ飛んで行く。
しかし波立つ水飛沫(しぶき)の最中、バランは口中に空気を凝縮していた。
水飛沫をも巻き込み、激しく渦巻く真空の弾丸が形を成していく。
そして水飛沫が収まったその時、バランは真空圧弾を発射した。
真空の弾丸が発射されたと同時に、巻き込まれた海水は勢い良く弾け飛び、弾丸はホーエンスへと向かい、ホーエンスの腹に直撃した。

ズゥガアアアア…!

 

――ちっ。
自分、あの小童みたいなのに負けたのかよ。

――なんでだ…!
なんで私が、あんな虫如きに負けるんだっ!!

――そうか。
某(それがし)は、山神に負けたのか……

――このままじゃ、暴龍様に顔見せ出来ないな。

――まずいっ!このままここで暴龍様に出会ったら…間違いなく御仕置きされるっ…!

――暴龍様…このままで、我らは終われませんぞ……

 

『…お前達、「魔獣」じゃな?』

 

――ん?

――ああ?だったら何だってんだよっ!

――はて、そなたは一体…?

『儂はお前達と同じ、「魔獣」じゃよ。瞑想をしていたらお前達の無念の声が聞こえたのでな、接触してみただけの事。儂の魔力を使えば、お前達を現世に呼び戻せるやもしれんが…どうする?』

――自分達を蘇らせてくれるの?じゃあ、やってよ。

――なんだ、同類じゃないかっ!私は蘇れるなら是非蘇りたい!頼むっ!

――そうだな…某達には、やり残した事がある。その目的を果たす為にも…その話、受けよう。

『そうか。なら、お前達を再び現世に返してやろうぞ…
我が故郷・ムーの秘術と、儂の魔力を合わせ…この魔獣達の魂を再び肉体に…現世に召還せし……!』

 

???『『『………!』』』

 

???「あっ、こいつらやな!お爺ちゃんの魔獣仲間!」
???「他人に指を差すのを止めい、バルゴン。さて…久方振りに現世の空気を吸った気分はどうじゃ?」

???『うん。悪くないよ。』
???『すうううぅ~、はあぁぁぁ……うはああっ、かえってきたあああああっ!』
???『人の体に転生したか…まぁ、この方が目立たず行動出来る。悪くはない…』

獣人界・ウェスター島。
誰も人がいない大海の孤島に、三体の「魔獣」が召還された。
全身に炎のような禍々しく黒い模様が付いた灰色の肌、手・足首に付いた銀色のリング、ネズミ色の髪が共通したこの魔獣達……彼らはかつて、1500年前の「‐」世界の日本で大魔獣「暴龍」の元に破壊の限りを尽くしながら、超古代文明の力を受け継いだ賢者達に封印され、2010年に「暴龍」の覚醒に呼応して復活し、再び日本で暴れ回った末に「‐」ゴジラ・バラン・モスラによって倒された、陸・海・空の三魔獣であった。

ウルフォス『イーブルス、ホーエンス、元気?』
イーブルス『おうっ!この通り、私はピンピンしてるよっ!』
ホーエンス『我ら「暴龍に使えし陸海空を征す三魔獣」、再結成の刻だな……』

常に睨むような鋭い目付きをした、荒々しいセミロングのウルフヘアーの男は、陸の魔獣「岩狼」ことウルフォス
不遜な笑みを浮かべる、鳥の尾羽に似たロングポニーテールの男は、空の魔獣「剛禽」ことイーブルス
目を閉じて沈着冷静とした、鯨の尾の形を思わせるロングヘアーの男は、海の魔獣「重鯨」ことホーエンス
「‐」世界の日本を二度に渡って脅威に陥れた三魔獣が獣人界に舞台を移し、三度目の復活を果たしたのだった。

ジャイガー「お前達、再会を喜ぶのは構わんが…まずこうしてその機会を作ったこの俺、大魔獣・ジャイガーへの礼が必要ではないのか?」
バルゴン「ほんまやほんまや!お爺ちゃんにドゲザせい、ドゲザ!あっ、ちなみにワイはバルゴン。よろしくやで!」

三魔獣の前には、今の彼らと同じく人間の姿を取る怪獣…青年と中学生の二人の男がいた。
首から宝玉が付いた大きな装飾品を下げ、先端に穴が空いた尾を持つ、古風な衣装を着た老人口調で話す青年の名はジャイガー。
頭の黄色い三本角に、目の辺りだけが赤い前髪、先端に幾つもの棘が生えた尻尾が特徴のラフな服装の中学生の名はバルゴン。
無人島である筈のウェスター島に住む、たった二人の住人である。

ウルフォス『あぁ、それもそうか。ありがとう。』
イーブルス『土下座だぁ?ふざけんなっ!蘇らせてくれた事には感謝するが、土下座なんてやらんぞっ!』
ホーエンス『止めるんだ、イーブルス。また地獄に戻されても良いのか…?それが嫌なら、きちんと礼を言うんだ。』
イーブルス『…ふん!私達を蘇らせてくれて、クソありがとうございましたっ!!』
ホーエンス『それでいい…では、ジャイガー。某が彼の分まで礼を言う、だから彼を許してやって欲しい。我らに三度目の機会を与えてくれて……感謝感激、雨霰(あられ)。』

バルゴン「あられ?ってか、何やねん!クソありがとうって!あやまってへんやろ!」
ジャイガー「……ふぅん。そこの鳥頭は無礼にも程があるが、お前がそこまでと言うなら特別に許してやろうぞ。」
ウルフォス『そうそう、自分はウルフォス。で、あいつはイーブルス。こいつはホーエンスだから。』
バルゴン「ふ~ん、なんかお前らみんなタイガースみたいな名前やな。生まれは大阪なん?」
ウルフォス『大阪?』
イーブルス『何言ってんだ、あのトカゲは。馬鹿か?』
バルゴン「なんやと!!お前、今ワイに『バカ』って言うたな!!」

イーブルスが軽く口にした愚弄の言葉を聞くや、激怒したバルゴンは先端が膨らんだ長い舌を出しながら、イーブルスを激しく威嚇する。
イーブルスもまた、大阪で育った者にしか分からないバルゴンの怒りの沸点が理解出来るわけが無く、困惑しながらも苛々が隠せない。