チハヤ、降る 3

「ふぅ…なんかパワーアップしてるとは言え、連戦はきついか…」
「大丈夫?なんか、ここに来た時からもうボロボロだったけど…」
「ちょっと、ヤングの頃のギドラを倒して来てすぐここに飛ばされたから…ほら、あの空に空いてる『穴』から来たんだよ。」

 

僕が指差した先には、晴天の中を白い雲が幾重にも螺旋を描いて、その中心部分に時空を穿ったかのような黒く大きな「穴」がぽっかりと空いている。
まだ1、2時間は消えなさそうかな?

 

「本当だ、空に穴がある…」
「ちなみに今、あの樹の中にいる変態ってもしかしてデスギドラ?」
「うん。でも、よく分かったわね?」
「僕の所にもいるんだよ。こっちのは弱い者虐めが大好きなゲス野郎だけど…ほんと、デスギドラってどの世界でも最悪だよ。」
「そうね…同感。」

 

青空を背に、唯一残っていた小さな花園に座り込んで、僕はセラフィと話をする。
セラフィは僕の隣で目を瞑って、僕の肩とくっつくぐらい近くの距離で安堵しながら、爽やかな風の中で時々漂う花の香を味わっている。
安心したのか、疲れてるのかは分からないけど、あんな女の扱い方を知らないような変態の相手をさせられたらそうなるか。

肩を貸すくらいなら、別にいいけど…こう見るとお姫サマって言われるのは分かるくらい、可愛いな……

 

「そうだ、セラフィって何歳?」
「15歳よ。チハヤは?」
「16歳。」
「あっ、あたしより一つ上なのね。同い年かなって、勝手に思っちゃった。」

…ただ、どうしても納得のいかない事が一つある。
僕より1歳年下の、まだ高校生になったかくらいなのに…胸は僕より一人前かよ!

 

「…?どうしたの?」
「いや…育った環境が違うからか、って思ってただけ。」
「好き嫌いは否めない、って事?」
「そんな曲あったね…と言うか、この世界にもあるの?」
「うん、そう…そうだ!なんかあたし、気になって来た事があるの。」
「僕もあるけど…一応、言い合ってみる?」
「ふふっ、賛成。じゃあ…」
「せーのっ。」

 

「「詳しく聞かせて、/貴女のいる世界。」」

 

 

それから互いの世界について話し合ったり、一段落したらセラフィの緑を治す力(パルセフォニック・シャワー)と僕の奇跡の水を使ってインファント島の自然を治したりして……やがて空が雷のような轟音を上げるのを合図に、雲が大きく渦巻いて…いよいよ僕の帰る時が来た。
「穴」が塞がったら、帰れなくなるし…残念だけど、セラフィとはここでお別れ。

「チハヤ、今日は本当にありがとう。チハヤのおかげでブラウニーを封印出来た上に彼に汚されずに済んだし…インファント島も元に戻ったし。何より、違う世界にも貴女みたいな立派なモスラがいる事が嬉しかった。
『ちはや、ぶる』…強い貴方にぴったりの名前ね。」
「ううん。まだ僕は、倒すべき奴を倒せてないみたいだから…でもゆっくり一休み出来たし、セラフィと出会えて良かったよ。」

それにしても、セラフィがわざと避けてたから聞かなかったけど、この世界には他にモスラ一族はいなさそうか…
イムって妖精モスラはいるから、このままでも心配はなさそうだけど、デスギドラがまた復活したらとか、色々不安になる。
何か、僕に出来る事は……

「チハヤ?どうしたの?」「…セラフィ、もしかしたらこれが最初で最後の出会いになるかもしれない。だから…これを。」
「真珠?」
「僕が信じた君に…この世界の未来、託したよ。」

僕の力と、願いがこもった真珠を渡す。多分、僕に出来るのはこれくらいだし…あっ、しまった!
これ、ユナ王女とやってる事ほとんど一緒じゃん!

でも、喜んではくれた…みたい。

「ありがとう、チハヤ…こうして握っているだけで、貴女を感じる…じゃあ、あたしからも一つ。イム、お願い。」

そう言うと、半透明の妖精モスラのイム――ひとりぼっちの姉の為に生まれ変わった妹――が光の糸を出して、僕の体を包んでいく。

なんでだろう…何故か、僕がお母さんを助ける為に必死に産まれようとした、あの日を思い出す……

「『永遠の繭』よ。この繭には、太古からこの世界を守って来た歴代モスラ一族の思いが詰まっているわ。帰ったら、また戦いになるみたいだから…これはあたしからのプレゼント。」

そうか…だから、自分が産まれた時の事を思い出したのか…
それだけじゃない、この世界にいたモスラ達全ての思いが伝わって来る…!
セラフィの、お父さんとお母さんの思いも…!

「…必ず生きて、また会いましょう。だから…!」
「さよならは言わない、その日が来るまで…!」

「「じゃあね!」」