昭和キングギドラ×平成ギドラ前編

龍鬼────忘れたくても忘れられない男の名前であると同時に、ギドラとカイザーの父親だ。

初めから彼は死して尚も「鬼」と言われるような人柄ではなく、厳しい中にも同族と家族を思いやる人格者だったが、とある出来事が彼を変えてしまった。双子が生まれたのだ。
一人は一族でも奇跡的な確率で誕生するカイザー種、もう一人は何ら変哲もないキング種を産み落としたが、その時元から体が弱かった為か、彼女は数日のうちに死んだ。

妻を殺したのは次男のせいではないと解っていた。しかし、長男は一族の中でも生まれつき上位種なのに、次に産まれてきたのは明らかに平々凡々の個体――しかもコイツが産まれた後に妻は死んだ。平等に接せる訳がなかった。
次男のギドラに乳母を着けたとはいえ散々冷遇し、しかし逆に長男のカイザーは後継ぎという事もあって、良い待遇を受けた。

更に、龍鬼はギドラに向かってこう言い放った。

『お前が女なら良かったのに』

その言葉の影響だろうか、思春期にギドラの体に変化が起きた。先ず、女体化した上に、胸に顔が二つ出来た。
叫び声を上げれば、その乳房達もまた同じように甲高い声を上げる。正に異形の肉体だった。

当然ギドラは物凄く慟哭し、嘆き悲しんだが、まさか父親や兄に言う訳にもいかず、乳母のクリムゾンギドラに打ち明けた。最初は流石に彼女も理解できなかったものの、何とか話してゆく内、彼女は漸く理解してくれた。

「大丈夫、これは呪いのようなもの。私達で解決策を見つけましょうよ。」

その言葉に、ギドラは塞き止めていたものを一気に掻き出すように、激しく泣いた。

そして数日後、龍鬼はやはり任務中にキラアク星人に捕まり、地球怪獣と戦うハメになったが、所詮は多勢に無勢、集団で暴行され、最後はミニラのリング状熱線を食らってその生涯を終えた。

だが、ギドラ家の災難はこれだけでは終わらなかった。龍鬼が殺された数日後、突然クーデターが起きてギドラ達は命の危険に晒された。恐らく龍鬼のやり方に反対する者がやったのだろう。

その時乳母を失い、残ったのはカイザーとキングだけになった。そして彼らは悲しみを乗り越え、やがて長となった。

 

そして現在、カイザーは遠方に出撃中、ガイガンは彼のお付き、デスギドラは全く別の用件で出撃中だ。

龍鬼の死から15年経った。本当にこの間は色々あった。好きな人を失い、長になったは良いものの、その直後は忙しかった。部下の統率、未だに残る反逆者達への対策……挙げれば数えきれない程だ。

そして今、彼らに関しての書類をまとめていた所でギドラはため息を吐いた。
外は目が覚める程に快晴、そして彼は“女体”状態だ。
それまでは平和だと思っていた。だが、今日は何やら何時もと違っていた。

まるで朝から誰かに見られている様な、そんな奇妙な感覚だ。

頭では気にしなくても、無意識に目をやってしまう。

───一体何なのだ……?

「ふぅ……」

何の気もなしに体をゆっくりと後ろに預け、リラックスの態勢になる。その時椅子が微かに軋んだ。
すると、窓から誰かがちらりと覗いた。

「…誰だ?」

まさか空き巣?此処にコソ泥が忍び込むとは良い度胸だ、と思いながらキングは席を立った。

廊下は水が打った様に静かだった。というのも、配下達は皆各々の任務で出撃中だ。

その中でギドラは独り、外を見回っていた。中庭、テラス、門の周辺……探したが、人影らしきものは見当たらなかった。

───逃げたのか?それとも……

自分が疲れていただけだろうか。それはともかく、残りのノルマを済ませる為に部屋に戻ろうとした時、後ろから声をかけられた。

 

「久々だな、キングギドラよ。」

自分を呼び掛ける声にギドラはびくりとした。
同時に、そいつの声はかつて自分の父親のものと判断した。

「父上……!」

「暫く見ぬ内に大きくなったな。」

その間にも龍鬼は足音もなしに、にじりにじりと此方に歩み寄ってくる。
こうなればもう逃げられない。

「一体何しに来たんだ…?」

「実は儂の命日でな…たまには子供達に顔を合わせようかと思ってな。」

それにしては静かだな、と呟きながら辺りを見回す。当然だ、皆各々の仕事の為、出ているのだから。

「と、いうのは嘘で……」

その言葉に一瞬空気が凍りついた。そして、一間置いてこう一言。

「現在女の貴様を…抱きたくなった。」

その直後、ギドラの腹部に激痛が走った、と思えばそのまま地面に倒れ伏せた。

「っぐ……!」

「まぁそんな怖い顔で睨むな龍聖。」

龍聖。カイザー以外に、仲間達───ガイガンにもデスギドラにも呼ばせた事のない、ギドラの愛称。

「ゆっくり、楽しもうではないか……」

そのまま龍鬼は念力でふわり、とギドラの体を持ち上げた後、近くにある部屋に入っていった。

 

 

 

 

 

あれからギドラはベッドに押し倒され、そこから服は龍鬼の念力によって強引に全部脱がされた。

そこから除く汚れのない彫刻品の様な肌は、またとない程に彼の目を奪った。

「どうした?抵抗しないのか?」

抵抗できる訳がない。此方は破れた軍服で手を拘束されているのだから。

「父上……」

「何だ?」

「手…外してくれませんか?これだとこれからの行為に支障が……」

ギドラは手の拘束を解いてくれる様に懇願した。しかし、

 

「馬鹿を言うな。もし外したら、後にお前に抵抗されてしまうではないか。」

……賭けが外れた。というより、仮にも父親だからといって油断していた事にギドラは後悔した。が、もう止められない。

これから自分は実の父親に犯されるのだ。

「では、行くぞ。」

その一言から全ては始まった。先ず、龍鬼はギドラの胸に口付けた。

「んっ……」

「んふっ……!」

同時に声を上げた。恐らく舌を絡まされているのだろう、微かに胸から声が上がった。

そして、龍鬼は更に片方の胸の口に指を突っ込んだ。

「ンァ……ッ!」

ぴちゃぴちゃ。唾液と指先の絡む音が何度も両者の聴覚に響く。そしてそれはギドラに羞恥心を高める為のものになる。

「っは……父上ぇ…!」

嫌悪とそれに伴う快感で無意識に身をよじる。そして、何気に太股を擦り合わせた時に“ぐちゃり”と音がした。
それを龍鬼が見逃す筈はない。

「何だ、もうこんなに濡らして。」

と、龍鬼の余っている片手がギドラの局部に伸び、微かにソコをなぞった後に本人の眼前に突きつける。

そして、ギドラが見たもの、龍鬼の指先に少し白濁した液体が付着していた。

「ほら、お前の胎内から溢れ出たものだ。」

「あ…あぁ……!」

ギドラは恥ずかしさの余り、そこから顔を背けた。が、それは叶わなかった。首が金縛りの様に動かなくなり、そのコンマ一秒後にその指先を口内に突っ込まれた。

「んぅっ?!ふ……」

「飲め。噛みきったりしたら許さん。」

その言葉にギドラは目を見開いた。とにかくこの液体を飲まなければ。

……汚い。辛い。気持悪い。それでも涙目になりながら、ごくり、と飲み干した。

 

「よし、偉いな龍聖。」

誉められながら指を引き抜かれる。

「っぷは……!」

「まだ終りではないぞ?」

と、龍鬼は今度はポケットから何かを取り出した。
それは、毒々しい色のバイブレーターだった。

「あ……それは…!」

「何だ、まさか挿入た事がないのか?」

この質問にギドラは口ごもった。何せこの状態で性交をした事は一度もないからだ。

「まぁ良い。挿入るのは後だ……」

とは言いつつも、かちりとスイッチを入れてソレをある部分に近付けた。

そこは、女性器の中で一番敏感な部分だった。

「あ…っ父上ぇ……!」

軽くなぞられた位で甘美な声が出る。
しかし、それでも躊躇わずに、バイブレーターをその部分に押し当てた。

「はぁうぅうぅん!あっ…やっ……!」

腰を捩って逃げようとするも、龍鬼の手がそれを許さない。

「まだまだ…こんなもんじゃないぞ?」

と、今度はバイブレーターの強弱を調整するリモコンを取り出し、次第に強くしていった。

「い…嫌ぁああ!父上ぇ…父上ぇえ!!」

もう直ぐギドラの絶頂は近い。その証拠に胎内から若干白濁した液が溢れてくる。

しかし、躰が歓喜に震えかけた手前で不意に局部からの感覚は弱まった。

「あ…?!」

「余りにも嫌そうだったのでな……従ってやった。」

確かに自分は性格上はともかく、自然の道理として父親の前で逝く事は許されない。

だが、その反面体は熱病の様に激しく疼いていた。

「どうしたんだ、そんな物欲しそうな顔して。」

「っう……!」

逝かせて欲しい、なんてとてもじゃないが言えない。しかし、今はこの疼きを鎮めて欲しい……。

ギドラが未だに口を開けずにいると、何やら局部に生暖かく、ざらりとした感触がした。
まるで、獣の舌に舐められた様な……。

「っうあ!?ち…父上ぇ……!」

何とか身を起こして下腹部を見ると、何やら金色の龍がギドラの局部を弄っている。

「何だ、玩具の方が良かったか?とにかくコイツも貴様の乱れ具合を見たくて出てきたんだ、許してやってくれ。」

勿論嘘だ。龍鬼は明らかにかつての憎悪の対象をひたすらに乱れさせたいのだ。
その為なら、例え相棒の龍を使ってでもこんな自然界のルールに反した行為を行う。

「んぅっ……く…!」

身を捩っても、ざらりざらり……と龍はひたすらに局部を舐め続ける。
その中で、またもや体の奥底から何かが昇ってくる様な感覚に襲われた。

「あ…ゃっ……父上ぇ…!」

「どうした?文句があるなら儂の龍を押し退けたらどうだ?」

押し退ける……そうやりたいのだが、如何せん両手を拘束されている為にできない。
その中で胸の顔も艶やかな声を出し続ける。

「は……っあ……!」

「も…止め……!」

そして龍の舌先が花弁と一緒に、ギドラの最も敏感な部分の皮を捲り上げた直後、ビクッと腰が跳ね上がった。

「ひぅっ!…そこは……っい、ぁああぁあぁ!!」

飛沫が上がったと同時に、局部から緩い解放感を感じた。どうやら逝った最中に失禁してしまったらしい。

「うう……ん…!」

「龍聖…お前はつくづく悪い子だな。良い大人が…」

ブツブツと文句を垂れながらも、龍鬼はぐちゅ、と失禁と愛液塗れの秘部を軽く指でなぞる。

「ベッドの上でお漏らしするなんて…な?」

「そ…それは父上が…!」

反論しかけるや否や、ぐい、と髪を掴まれた。その龍鬼の表情は、半ば怒りに染まっている。

「儂に反抗するな。貴様は今、儂の“愛玩人形”だ。喘ぐ以外は…黙ってろ。」

この言葉に、ギドラの心がすぅっと冷たくなった。
この鬼は……最早目の前にいる実の子を同族扱いしておらず、寧ろ欲望のはけ口を解消する為の人形として見ている。

けれど、悟ったところで何も変わらない。寧ろこの状況を覆す術すら見当たらない。

「さて…前置きは此処までにして……」

と、今度はギドラの両足を自らの膝で割る。亡霊なのに、何故か大人の男性程の体重を感じた。

「っ……!?」

「龍聖…ひとつ質問をさせてもらうが……既にガイガンとやらと寝たのか?」

唐突な質問にギドラは息を呑んだ。というのも、普段の男性としての肉体ならともかく、今の状態で彼奴と体を交えた事はないからだ。

「な…何故そんな事を……」
「質問に答えろ。この躰で…あの蒼い坊主と寝たのか?」

このまま寝た、と言えば嘘になる。しかし、答えなければ確実に龍鬼の苛めは終わらない。
ましてや局部に父の自身があてがわれ……最早後戻りはできない。

「っ寝てない………!」

「聞こえぬなぁ…もう少しハッキリ言ってくれないか?」

次第に花弁に硬く異様な熱気を感じる。布越しから明らかに龍鬼が発情している証拠だ。

「ね…寝てません…!」
「ほぅ…意外だな。まぁ、儂にはとても残念なのだがな。」

こんな状況でもバカ正直に答えてしまう自分を憎らしく思った。
そして、龍鬼は不敵な笑みを浮かべると同時に、ズボンのファスナーに手をかけて自身を取り出す。

「何はともあれよく言えたな。
では、ご褒美だ……!」

ギドラの正常な意識が聞いていたのは、自らの父が発した自然の摂理に反する一言だった。

そして、穢れを知らぬ胎内に龍鬼の男根が入ってゆく。

「いっ……ぁあぁあ!!父上ぇ、お止め下さい!痛いぃい!」

「何を言い出す。今更抜けるか。
……ほぅ、やはり処女であったか。」

汚い。痛い。醜い。ギドラはただこれらから逃れたくて体を捩り、滅多に流す事のない涙を流す。しかし、それを尻目に龍鬼は律動を始め、それに合わせて室内にギドラの飛沫が上がる。

「ほら、お前の血でシーツが汚れているではないか。」

「あ…あぁ……こんな…こんな事………」

これが最悪の対象である父上ではなく、かの黒い死神の方がどんなにマシだろう。ヤツは薬やら何やらで攻める分、苦痛の分は恐らく少ない。
けれど、考えた所で最早現実は変えられない。

「はぁ……父…う…え……父上ぇ!」
「良い様だな、龍聖。あぁ、この有様をガイガンに見せたらどうなるだろうな?」

ガイガン、と聞いてギドラの表情に忽ち変化が見られた。突然顎を仰け反らせたかと思うと、急に胎内の締まりが良くなった。

「おや、何だ?急に締まりが…」

どうやらガイガンという言葉に反応したらしい。けれど、それはギドラの弱点を付いたも同然だ。
その証拠に、ギドラは苦悶から忽ち快楽に喘いでいる表情に変わる。

「はっ……ぅああ……んっ…はぁ…はぁ……!」
「ほら、ココが良いのか?それか…ガイガンよりも儂の方が良かろう?」

龍鬼が突き上げ、かき回す度に、感じたくないのに体が別のものの様に反応する。
そして、汚れる。自分と、愛しい者の存在が───。

「ひぅっ!あ…父ぅ……ぃやあぁあ…!!」

「そろそろ気をやる様だな。まぁ良い。後でもっと楽しい場所に連れて行ってやる。」

その言葉の意味を理解しようとした矢先、容赦なく龍鬼は敏感な場所を執拗に突き続けた。

「ゃ…止めっ……!きひっ、ぁ……うぁああぁぁあァアァアァァッッ!!」

飛沫を上げながらびくん、びくんと体を痙攣させ、同時に龍鬼の自身をキツく締め上げる。
その直後、彼の顔が微かに苦痛に歪んだ。

「ッ……龍聖…!」

ギドラの胎内に溢れんばかりの液状の種が植え付けられても、龍鬼は何ともなかったかの様に自身を引き抜き、身なりを整える。
そして、無言ながらも何やら意味深な笑みを浮かべ、眼前で気絶した“彼女”を抱え、ある場所へ飛び立っていった。

 

 

 

 

「や…っ止めろ、止めてくれ!」

とある町外れのスラム街でその声は虚しく響いた。

むせかえる様な汚水の匂いが漂う場所で、ギドラは龍鬼に見守られるがままに、半ば獣欲に飢えた青年三人に犯されていた。

「誰が止めてやっかよ!ほーら、あんよ開いてぇ~……」

と、両脚を抱えられ、正面側に立っている二人に見せつける様に挿入する。

「う゛ぁああぁん!!」

背筋に甘美で、おぞましい稲妻が走る。
開かれているのも勿論、胎内は龍鬼の欲を受けた分滑りは良かった。

「おぉ、入ってる入ってるぅ!」

「へぇ~、女性器ってこうなってんだなぁ……」

後の一人はどうやら体験がない様で、半ば珍しそうに結合部分を見ている。
そんな光景を龍鬼は黙って見ているのみ。寧ろ微笑ましい光景を目の当たりにしている様だ。

「そういや、龍鬼サンからコレ貰ったんだよねぇ~。」

と、男が取り出したのは、先程のローター。それは薄暗い街灯に照らされて鈍く光っている。

「あ…や、止めろぉ!貴様何を考えて……」
「うっせぇなぁ……ほ~ら、当てますよ~?」

嫌悪の余り足をバタつかせるも、がっちりと後ろから体を抱えられ、そのまま躊躇なくローターを秘豆に押し当てられる。その瞬間、ギドラの体が激しく波打ち、同時に胎内もキツく締まり始めた。

「あぁああぁあ!!ひぎっ、は……嫌ぁあ…!」
「っく……溜まんね……射精るぅ!」

男のうめき声がしたと同時に、ギドラの胎内に熱い白濁が入り込んでくる。勿論子宮にも容赦なく注がれた。

「あっあぁ…嫌…嫌ぁぁ……ちちうえぇ……!」

無意識に父に助けを求めるも、それは別の男が入ってきた事でかき消された。

「助けなんざ来ねぇぜ、龍聖様よぉ。ああそうだ、このままアンタの前の穴に突っ込むけど……良いよな?」

その一言に絶句した。コイツは前の胎内で先客がいるにも関わらず、更に自身を挿入しようというのだ。

「いっ嫌だ!そんな事をしたら壊れ「構わん。寧ろそいつは徹底的な被虐を好むのだ。お前たちの好きな様に弄んでやれ。」

龍鬼の言葉に遮られ、男の顔に獣じみた笑みが浮かんでくる。こうなれば、もう止められない。

「龍鬼さん、恩に着ます!それじゃ、怪獣生初の二輪射し参りますよ…?」

言葉が終わらない内に、そいつはギンギンに勃った自身をぐぐ、と押し付ける。
花弁が無理やり押し広げられる感じがする。もしコレが入り込んできたら……想像できない。

「や、やだっ!貴様、挿入しようものなら後で覚え───」

しかし、そこまでだった。

突如赤い光線が上空から飛んできたかと思うと、その目の前の男性の頭部を打ち抜いた。

「っあ……?」

突然目の前で惨殺された相手。更に後ろを向くと、一瞬だけだったが青い影が、今ギドラを抱えている男を一太刀の元に切り捨てた。

「ガハッ!……テメェ、何故………」

直後、漸くギドラは解放され、そいつ諸とも地面に落下する前に手で受け身を取る。

 

───一体何が……?

四つん這いになり、太股に溢れる白濁が流れるのを感じる中、ふとギドラの視界に見覚えのある人影が入り込んだ。
それは紛れもなく、昔黒い死神によって殺されかけた所を助けた青年の姿だった。

「ハァッ!」
「ぐあぁァアアッ!!」

最後の男の断末魔と血飛沫が上がり、今や残るは龍鬼のみとなった。

「貴様…下衆共をけしかけてギドラに手を掛けるとは、只では済まんぞ!」
「っち…邪魔が入ったか……」

悪態を吐く龍鬼。その表情には明らかに嫌悪の情が入り交じっている。しかし、それは次第に凶悪な笑みへと変わっていった。

「もう遅いぞ、小僧。もうそ奴の体は、男を知ってしまったからのぅ?」
「………ゴチャゴチャと、煩い!」

ば、とガイガンが龍鬼に切りかかるも、相手は瞬時に霧状になり、忽ち消えてしまった。
後には三体の惨死体と返り血を少し浴びたガイガン、そして未だに全裸のギドラがいるのみ。

「…ギドラ、すみません。彼奴を取り逃がしてしまい「馬鹿者……」

ぎゅ、と後ろから抱き締められ、思わずガイガンはびくりとした。

「……っ?!」
「それより、早く戻るぞ。上司に風邪を引かせる気か?」

確かに辺りを見回せば、ギドラの服は此処にはない。また、周りにも布の類はなく、彼は全くの全裸という事になる。

「は、ハイ!今すぐ帰ります!」
「解れば良い。それと……なるべく高く飛んでくれよ?民衆が余の姿を見れば、忽ち騒ぎを起こすだろう。」

「りょ、了解です!」

そして二人はふわりと飛び立ち、ガイガンはギドラの体を隠す様に、彼の下側を飛んだ。

夕闇が辺りを染めゆく中、ふとギドラは虚空を仰ぐ。

───父上……これから先も貴方は余を狙うのですか?

そう思うと、背筋に悪寒が走った。最初はこの肉体、そして次には……恐らく命だろうか。
それだけを考えると、微かながらギドラの眉間に皺が寄る。

───けれど、余は決して貴方に負けはしませんよ。何故なら……

す、と手を差し伸べ、今自分の身を見せない様にして飛んでいる部下の手を握り締める。半分が機械とはいえ、それでも生き物だけに温もりが伝わってくる。

「ギドラ…?」
「暫くは…こうさせてもらうぞ。」

「は…ハイ……」

戸惑う部下に対し、ギドラは微かに苦笑した。自分が助けた部下に、まさか今回はその逆になろうとは……。

冷たい夜風が身を切り裂く中、互いに握り締めた手の感覚は殊更に暖かかった。