堕落神獣 Last

「ん……」

 

あれからどの位眠っていたのだろうか。肌寒さと瞼越しから指す眩しい日差しでセラフィは目が覚めた。
まだ視界は霞むものの、先ず視界に入ったのは豪華な作りの天蓋を始め、周りには煌びやかな装飾品があちこちに置かれてあり、壁には深い赤を下地に、綺麗な金の刺繍が施されていた。
けれど見とれるのもそこまでで、自分は今服すら纏っておらず、代わりに紫色の掛け布団を一枚被せられている状態だ。このままだと、誰かに見つかったら大事になる。
ともかく、ここはデスギドラの部屋なのだろうか?否、彼の部屋は天蓋ベッドは疎か装飾品の類はなく、それどころか枯れた観葉植物ばかりが置かれてあったはずだ。

それでは、ここは一体誰の部屋なんだろう。疑問が脳内で浮かぶ中、不意に向こう側から何かが軋む音がした。

「……誰!?」

 

ガチャ、とドアを開くと、そこから軍服に身を包み、頭部から不定期に湾曲した角を生やした金髪の男が入ってきた。
デスギドラとは違い、正真正銘のギドラ族特有の威風をまとったその男性を、セラフィは布団の隙間から覗いていた。
手には金色の燭台を持って。

そして男性はベッドを一瞥すると、その上にあるくるまれた布団に近づき、小首をかしげる。

「まだ寝ているのか?余程やり過ぎた様だな」

とても透き通るテノールで呟き、そっと布地の表面を撫でる。少しながら温かみを感じた。
しかし、それは数秒だけの事で―――忽ち視界が反転した。何故なら、セラフィが突然起きた直後布団を翻し、手にしていた燭台を喉元に突きつけていたからだ。

「生憎だけど、もう起きてるわよ」
「ほぅ…思っていたより元気なことだな」

少しでもセラフィが手を動かせばその切っ先は忽ち首を刺すというのに、男は身じろぎする様子もなく達観したかの如く彼女を見やる。

「……何?怖くないの?」
「恐怖などとうに忘れたわ。…最も、今のお前には余に傷ひとつ負わせられないがな」

口元を少し歪めた形で冷たく告げると、未だこちらに向けて鋭い視線を送ってくるセラフィに目を合わせる。すると、10秒もしない内に彼女の様子が変化した。

「あ…貴方……っは…!」

燭台を持つ手が震え、次第に翡翠色の目も開かれてゆく。
あらゆる生命から血液を残さず搾ったかの様な、眼前にある二つの緋色を見てはいけない。なのに、目線は一行に反らせないままで――そして、幼虫の頃自分はこの視線に捕らわれた事があって―――。

「どうした、早く刺せ。それとも……妹の事を思い出したのかね?」
「っっ…‼」

振りかざせば簡単に刺せるのに体は金縛りに遭ったかのように硬直したままで、自然と燭台が手を滑り落ちる。それを合図にセラフィは手首を掴まれ、敢え無く寝台に押し倒された。

「! 嫌、離して!」
「なに、殺しはしないさ。あの幼虫の片割れが、こんなに綺麗な躰に育ったな…デスギドラが惚れ込むのも無理はない」

言葉を続ける度、自分の体が錘に括りつけられたように重くなる。暴れているはずのに四肢が動かせない。
その間にも男は尚もセラフィの裸身を視線で愛でる。今まで散々部下に汚されたとはいえ、それでも少しながら紅潮した白い肌は紫のシーツによく映え、隠す事さえ適わなくなった乳房には寒さからか果実がそそり立っている。

「み、見ないで……」

せめてもの抵抗で、或いは羞恥に耐えかねてセラフィが両目をぎゅっと瞑った直後、突如男からの殺気が肌を舐った。

「…おい」
「え……んむっ!?」

男の唇がセラフィの口を塞いだ。その際にも相手の舌先は歯列を舐め上げ、隅々まで口内を荒らしてゆく。

「ぁふっ!んむぅ、っんん!」

男の深い口付けを受け入れたせいでセラフィは思わず彼を引き剥がそうとした。しかし、そこでもまたあの重い感覚が戻ってきて、彼女から更に思考と抵抗する力を奪ってゆく。

「んん…!ぅ…はぁ……ぅうん…」

視界にあの赤が映る度、脳内が蕩ける様に痺れる。
男が舌を動かす度、セラフィはくぐもった嬌声を上げ、その気はないのに口付けに応えるかの如く、相手を逃がさない様に絡め取る。
やがて咥内で唾液交換が行われると、両手を掴んでいた手が漸く離れ、そこから数秒遅れて男の顔が一旦離れた。

「んむ……はぁ、ん…」

一際濃い粘液が両者の舌先を繋ぐ。それと同じくして、セラフィの身を包んでいた奇妙な感覚は潮が引くかの如く徐々に鎮まっていった。

「俺の許可なしに目を背けるな。まぁ、そういう処も可愛いのだがな」
「……っ」

潤みを帯びた目で男を見つめる。もう抵抗は疎か、睨む気力も既に無くしていた。
自分はこれからかつての仇に抱かれようとしている。なのに躯は毒でも注入されたかの様に動けないままで―――そして無防備にさらけ出された乳房に、男の片手がツッ…と這った。

「ところで…昨夜はデスギドラと楽しんでいたそうだな。彼奴にどんな事をされたのだ?言ってみろ」

語尾と共に一層乳輪をキツく抓むと、ぴくん、と微かに全身が痙攣する。

「ぁふっ、だめぇ…触らない、で……!」
「答えろ。それとも、こうして欲しいのか?」

と、がら空きになっている突起に男の唇が触れる。そしてわざと音を立てて吸われ、時々甘噛みされると、彼女の口から断続的な悲鳴が上がった。

「あぁっ…吸わない、でぇ…!嫌あぁ……」

そして、口で愛撫する際に余っていた手は敏感な臍周りを擦り、腰辺りの緩やかなアーチを楽しむと下腹部に達し、蜜を止めどなしにあふれさせている秘部へと触れようとした。

「そ、そっちはだめ!もう満足でしょ!?」
「答えないお前が悪い…これは罰だ」

言いながら、男の指先は半ば剥き出しになっている秘豆を軽く撫でると、ソレを包んでいた包皮を剥く。独りでに蠢く女芯を引っ張っては時々何度も押しつぶすと、ついにセラフィの口から悲鳴に近い声が上がった。
それに応えるかのように男は断続的な嬌声をバックに、ソレの裏筋や側面の隅々まで愛おしんだ。

何度も繰り返される焦らしと、男と目を合わせる度に溢れ出る情欲に、理性は既に焼き切れてしまっていた。

「あはっ…んぅ…で、デスギドラに、おかしな能力で…あひっ!な、何度も…イカされ、ったの…!下品な言葉も、っ言わされて、それで……あぁんっ!」
「ほう……それは大変だったな」

―――本当は一部始終見てたのだがな。しかし、ここまであからさまに言うとは面白い。

「は…っあぁ、も、だめ……なんか来ちゃうぅ!」

セラフィの手が望まぬ絶頂から縋る様に男の腕を掴む。その時彼は薄く微笑むと、再び緋色の目を光らせながら優しくこう告げた。

「言えたご褒美だ。悦楽に叫ぶが良い」

その言葉を皮切りに一際強く秘豆が摘み上げられ、時同じくしてセラフィの中で理性が音を立てて崩落した。

「い、っ…、ああぁああぁあぁあんっ!!」

がくん、とセラフィの顎が仰け反り、体の痙攣に合わせて常磐色の髪がシーツの上で散らばっては跳ねる。それでも秘部への愛撫は止まらないままで、あたかも秘豆から来る不定期な脈動具合を楽しんでいるかの様だ。

「い、嫌っ!も…っ手ぇ離してぇ!!」
「それは無理だな。もっとお前の乱れる姿を見たい」

「そ、そんなぁ……っひゃあ!?」

淫らな水音と共に、胎内に何かが入ってきた。更にそれは一旦抜かれそうになったかと思えばまた入れられ、そこから縦横無尽にナカを掻き回している。
そして指先がセラフィの弱い所を掠めると、途切れ途切れの嬌声が男の聴覚を支配した。

「あ…ひっ、も…やめてぇ……!立てなくなっちゃうよぉ!」

再び翡翠色の目から涙が流れ出す。先程逝ったばかりにも関わらず、甘い悪寒を伴いながらまた新たな浮遊感が体中に立ち込める。それに追い打ちを掛けるかの如く指は増えて激しく蠢き、彼女を一層彼方へと追いやってゆく。

「その必要はない。先刻みたいに逃げ出そうという気力がなくなるまで、付き合ってもらうぞ」
「…う、あ!?―――嫌ぁあああぁっあああぁ!!」

思い切り奥に突き立てられ、セラフィの口から拒否感に満ちた、しかし絶頂を告げる歓喜の声が部屋中に響き渡った。

繋がっていた箇所からは潮が飛び散り、男の手を濡らすと同時、その指を離したくないかの如く内壁が大きく脈動している。
それとは裏腹に、思考は解放されるどころか一層セラフィを絶望の淵へと陥れていた。

「はっ…あぁ……どうして…」

 

―――もう嫌…!感じたくもないのに、どうして私は何もできないの?

できれば光線の一発でも喰らわせたい。なのに、デスギドラに処女を奪われた時点でそれは叶わなくなった。何とか飛び立とうにも、先ほどの催眠作用とフェアリーを捕られたままでは逃げられそうにない。
今の私は羽をもがれ、ギドラ族の機嫌を取るしか能のない虫ケラ同然だ。しかも仇敵に好き勝手に嬲られて、こうやってはしたなく喘いでいる。

天国にいる両親も、今の私を見れば失望するだろう。そうなればもう墜ちてゆくしかない。余りの惨めさに、枯れたはずの涙はまた頬を濡らしていた。

 

「も…殺して……貴方もそれが望みなんでしょう?」
「開口一番にそれか…いい加減自分の淫らさを自覚したらどうだ?結局お前を抱いてくれる者なら、誰でも良いのだろう。守護神獣でもなくなったお前を迎え入れてくれる者なんて、我らを除けば皆無とは思うのだが」
「っち、違っ…私は誰でも良いわけが…!」

「では、昨夜の行為と先程のは何だ?お前の友人があの乱れっぷりを見たらどう思うだろうな?」

長年の縁もここまでじゃないのか、とまで言われ、再びセラフィから嗚咽が上がった。
抵抗する術も奪われ、この運命―――一生ギドラ族の慰み者となる運命を受け入れるしかないのだ。

顔を伏せて泣き出す彼女を見て、男は微かに笑みを浮かべると、頬を伝う涙を弄んだ時とは逆の手で拭い、先程とは打って変わって優しくこう告げた。

「安心しろ、俺はデスギドラみたいに飽きたら簡単に手放したり、殺したりする様な真似はしない。寧ろ骨の髄まで愛してやる」
「ほんと……なの?」

「あぁ。そもそも俺はお前を痛めつける為にこういう事をしているのではない。これからは俺の良き伴侶だ」

だからもう泣かなくても良い。望みなら何でも叶えてやる。それを聞いた途端、セラフィは漸く安堵したのか、泣き声を上げるのを止めて静かに男の首に腕を回した。

けれどその一方で、男―――龍爛の心中は達成感で満たされていた。
自らの作り出した兵士の余計な気まぐれもあったとはいえ、一族にとって脅威となる敵が、たった今眼の前で墜ちた。こんなに満足できる事はない。それを堪えての笑みだった。

邪魔者も相手の理性という障壁も、全てなくなった。後は、母譲りであろうこの豊満な肉体を貪り尽くすのみだ。

 

「それでは、今楽にしてやろう。――――お姫様」

 

 

 

 

室内に響いているのはセラフィの嗚咽ではなく、下から胎内を突かれる度に漏れる嬌声と、寝台が軋む音だった。
その中で彼女の表情は今にも泣き出しそうな顔ではなく、ギドラこと龍爛から与えられる快楽に恍惚の笑みを浮かべていた。

「い、良いっ!良いわ!ギドラ様の男根、とっても気持ちイイのぉ!」

今のセラフィは龍爛に跨がり、激しく上下に揺さぶられている上に、彼から出された両肩の龍に乳房を満遍なく舐められている。
本来ならその部分に唾液を垂らして舐められる事自体、嫌悪してしまいそうな感覚なのに、今の彼女にとってはまたとない性感を煽る要素だった。
最初は忌むべき仇敵だったのに、心も体も受け入れたらどうという事はない。寧ろこれまで味わった事のない快楽を与えてくれるのだ。此方も簡単に彼を手放す訳にはいかない。

一方でそんなセラフィの思いに応える様に龍爛は彼女の腰を掴むと、突き上げるだけではなく円を描くが如く男根で胎内を掻き回し、指では見つける事のできなかった敏感な箇所を探り当てる。

「あひっ!あぁん!あっ!だめぇ、っギドラ様ぁ、そんなに激しくされたら、っあ!あたしもう逝っちゃうぅ!」
「……そうか」

はしたない言葉を口走りつつ、それでも切羽詰まった様子のセラフィとは余所に、龍爛は余裕綽々でクスリと笑みを浮かべると、一旦自らの龍を引かせ、一息に押し倒した直後、間髪入れずに容赦なく下腹部を打ち付けた。

「あぁっ嫌ぁ!これ以上、っパンパンひないでぇ!ほんとに、子宮ぶっ壊れちゃうからぁ!」
「…そんな事より、お姫様は実に淫乱だな。出し入れする度に中から溢れて…シーツまでグショグショだよ」

「ギドラ…っ様……あああぁんっ!!」

一際甲高い声が響くと同時、セラフィの体が激しく何度も波打ち、宣告通り先に果てていった。
これで終わった…と思いきや、龍爛は顔をしかめる様子もなく、先程と変わらないスピードでセラフィを揺さぶった。

「ひう゛っ!ぁがっ、あっ!はっ…も、やめっ、あぁ!ひゃああぁあん!!」

動かす度、子宮が押し潰される。恥骨が軋む。肉壁は未だに胎動しているにも関わらず、龍爛の男根は容赦なく出入りを繰り返し、セラフィを更なる絶頂へと追いやってゆく。
これ以上逝かされたらどうなるのだろう。それを考える余裕も、結合部分から何度も走る感覚のお陰で打ち消された。

「ふふ…止めてと云いながら、しっかり余の男根を根本まで咥え込んでいるじゃないか。躯は正直だな」
「ぁふっ、い、言わな…で……気持ち良すぎて、ンッ、もう訳が解んないのぉ!だから、もっと私のナカめちゃくちゃに犯してぇ!」

頭部から生える触覚と萌葱色の髪をざんばらに振り乱しながら、今度は自分から懇願し始めた。
それだけでなく、相変わらず冷徹な龍爛を更なる劣情へと煽る為、自発的に乳房を荒々しく揉みしだきながら腰を淫らに振る。その痴態はさながら、動物が交尾の際に番となる相手へ求愛するかの様だった。

ここまでされて龍爛は改めて思った。
かつてインファント島の最後の希望だったお姫様は、本当に戻れなくなるほど墜ちてしまった、と。

「それが、お前の望みか。良かろう」

プライドもなくなった以上、とことんまで快楽地獄へ落としてやる。軽く微笑を浮かべると、今度は重点的に奥を抉り始めた。
内壁が何度も擦り上げられたと思うと忽ちこねくり回され、一旦ギリギリまで抜かれる度にセラフィの上擦った嬌声もまた切迫感に満ち溢れたものとなってゆく。

「ぁはっ!ソコもっとぐりぐりひてぇ!っギドラしゃまぁ、またあたし逝っちゃうよぉ!!」

互いに腰が動く度、セラフィからは断続的な嬌声が上がり、繋がった箇所からはやたらと大きな水音が立っている。その粘ついた音は、雌蘂が雄の樹液を欲しがって、ヒステリックに悲鳴を上げている様にも聞こえた。
そして、一瞬龍爛の表情が微かに苦痛に歪んだかと思うと、セラフィの躯を抱き寄せて耳元でこう囁いた。

「……っ射精すぞ、遠慮なく受け取れ」

ごつ、と締めの一撃が胎内を貫くと、封印されて以来永らく溜めていた熱い慾が子宮内に注がれる。勿論それは既に幾度目かの限界直前だったセラフィを、正真正銘の果てへと導くのに十分だった。

「ひぁっ!?ギド…らぁ…っあァアあ゛ァアァッ―――!!」

断末魔にも似た叫びを上げた瞬間から、セラフィの意識や視界も全て白に染まった。ただ覚えているのは、計り知れない歓喜の中で相手を抱き締めていた事と、胎内に植え付けられた種がごぷごぷと大量に注がれている感覚だった―――。

 

「あぁ……はっ…」

ずる、と自身を抜くと多量の愛液を始め、飲みきれなかった白濁が糸を引き、栓を失った胎内から行為の残滓が溢れ出す。
その感覚に一種の悪寒を感じながら、未だに絶頂の余韻が引かないままのセラフィは微かに嬌声を上げた。

「お姫様…初めてにしてはなかなかの乱れ振りだったぞ。しかし、今度はこうもいかないからな」

これからも幾ら哀願しようが、自分以外の男なんて考えられない程に可愛がってやる。穏やかな表情とは裏腹に、半ば脅しに近い言葉を掛けられてもセラフィは大して動じる様子もなく、息を整えつつ薄目を開けて相手を見つめていた。

 

―――結局…フェアリーも助けられず、ギドラ族を受け入れちゃったなぁ……でも、いっそこのままでも良いか。

 

毎日こうして気持ち良くしてくれるなら、もうあの子を探す必要も、故郷に帰る必要もない。寧ろどちらかが果たせたとしても、守護神獣ではなくなった自分を受け入れてくれるかなんて定かではない。
次に交わる時にはどうされるんだろう。多様に淫らなシチュエーションを考えている内に、何時の間にか彼女は薄く妖しい微笑を浮かべていたのだった。

 

 

 


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