レジェゴジの場合

ある日、儂を指名したお客から「アンタの顔が怖すぎてプレイどころじゃない」との苦情が入った。こちらとしては人間の言う美醜などよく理解できないのだが、この娼館で働いている同僚のオオタチからも偶然すれ違っただけで生命の危機を感じて驚かれたどころか、
『ジイさん、ちょっと最近殺気立ってない?そんなんじゃ誰も寄り付かないよ』
との一言を貰った。……むぅ、儂なりにいつも通りにしたつもりなのだがな。これも、偽りの王に捕らえられたままのモスラを助けるべく自分から怪獣男娼として人間タイタン問わず不特定多数に身を捧げた為に、毎度毎度気が張っている所為やもしれぬ。
こういう時はどうすれば…と悩んでいると、これまた娼館の同僚・スペースゴジラからアドバイスを貰った。

『この近くにドゴラの経営してるマッサージ店があるからそこに行ってみたら? 気を張り過ぎないために体を揉み解して貰うとリラックスできるし、貴方のコワーい表情も柔らかくなるわよ』
という助言を受けた儂は、娼館の主に暇を貰ってその店へ向かった。本当は僅かな時間でも手放したくなかったが、そこに行けば悩みも疲労も解決されると聞いては動かざるを得ない。

 

 

「ふむ……ここか」

着いた先はまさに裏路地に建っているビルで、一見すると別の娼館か何ぞの類いかと疑ってしまうが、落ち着きを誘うかの如く青々とした照明の光が不思議と裏路地と調和していて雰囲気を壊さない。看板は宇宙の言語で書いてあるらしくさっぱり読めなかったが、どうせ入ってみれば分かるだろう。儂は意を決して入口の扉をくぐった。

「ようこそおいで下さいました、ゴジラ様ですね。スペースゴジラ様からお話は伺っております。お待ちしておりました」

出迎えてくれたのは、クラゲのようなアメーバ状の小柄な怪獣?だった。儂の統率しているタイタンにこの様な個体は居なかった筈だが、もしや新種の宇宙怪獣だろうか。

「申し遅れました。私は当店のマッサージ師・宇宙大怪獣ドゴラと申します。今宵は存分にリフレッシュして頂けるよう、誠心誠意貴方様に尽くしますので何卒よろしくお願い申し上げます。さあさあ、どうぞこちらへ」

儂相手にも物怖じしないどころか、なんと礼儀正しい相手なのだろう。こちらを指名した挙句、一部の馴れ馴れしい態度で接する人間やタイタンの連中にもぜひ見習って欲しい位だ(特にコングという若造)。
以前の儂なら、そこまで謙られると下心があるのかと余計に疑ってしまったものだが今は違う。愛しの女王・モスラを人質に取られ、王の座から一変してタイタン達の肉奴隷となった儂は、表面上では平静を装えども内心ではギドラの提示した「100人の客を取ってこい」という命令の下、常に神経が昂っていた。戦いとは違う意味での緊張感を日々強いられていたため、こうして僅かなりとも緊張を解いてくれる相手と出会えたのはありがたかった。
席に着くと草の匂いのする温かい湯(ハーブティーという物らしい)を勧められ、飲み干しているとふとドゴラの言っていたスペースゴジラの事が気になった。

「今日は宜しく頼む。ところで早速の質問なのだが、スペースゴジラはこの店を贔屓しているのか?」
「はい。彼女はすっかり此処が気に入ったご様子で、何度も通って頂いております。こちらでのサービス内容はあくまで一般的なものとなっておりますが、貴方様のご要望次第で他のサービスもお受けいたしますよ」
「それは有難い。では、早速だが儂に施術をしてもらえまいか?」
「かしこまりました。それでは奥の部屋へご案内致しますね」

そう言って先導するドゴラの後に付いて行く形で奥の廊下へ入り、その先にある扉の前まで辿り着くとこちらを向いて一礼した後そっと木製の扉を開いてくれた。

「それでは当店自慢のマッサージルームへようこそおいで下さいました」

一礼するドゴラに従って部屋へ入ると、そこはこれまた深海を思わせる不思議な青みを帯びた光で包まれ、爽やかな花の香も相まって何とも言い表せぬがとても居心地が良い。宛ら海へ還ったような気になるのは、久しくこんな安らぎを味わったことがなかったせいだろうか。
真ん中に設置してあるひとつの寝台には、儂が寝転んだ際に背鰭が刺さるのを想定してかシーツの中心に縦一列の溝が誂えており、表面の触り心地はふかふかと柔らかい。試しに強めに触ってみると程好い反発の効いたマットレスが優しく受けとめてくれる。儂の勤めている娼館の安っぽいベッドとはまた違った触り心地に、思わず感嘆の声を漏らした。

「ほぅ……これは中々」
「お褒め頂いてありがとうございます。それでは早速ですが、施術に入らせて頂きますね。まず寝台にうつ伏せになって下さい」

促されるがまま寝台に横たわるとマットレスが体を受け止め、硬くもなく柔らかすぎない適度な圧迫感が胸板を包む。思わず目を閉じ、深く息を漏らしてしまいそうになる程快適だ。

「それでは始めます。力を抜いて下さいね」

その言葉を合図に、ドゴラは傍らに置いていたマッサージオイル入りのガラスボウルに触手を漬けると、儂の背中に幾本かの切っ先をぬるりと這わせた。
最初は触れられた感覚がなかったが、何度もマッサージオイルが儂の躰に塗られると微かながらにじわじわと熱さと心地よさが伝わって来る。思わず声が漏れそうだったが、それを安堵のため息で誤魔化すと、今度はドゴラが儂の背鰭を軽くなぞり始めた。

「ン………」

敏感な箇所を触れられる事で、感嘆に思わず呻き声が漏れた。なんと柔らかい手際だろう。強すぎず弱すぎない適度な力加減が心地良く、攻撃の要である筈の背鰭に触れられているのに一切の不安を感じない程だ。いつも儂の躰を一方的に弄ぶ客共の愛撫とは違う……ずっとこのままでいたいと思える程に絶妙な力加減だった。そして背鰭だけでなく脇腹や腰等にも触手が伝って行き、オイルの滑りに任せてやわやわと揉み解してくれる。

「痛くはありませんか?」

儂が心地良さから思わず『もっとしてくれ』と言いそうになった矢先、ドゴラの控えめな声で我に返る。早々から砕けた発言の代わりに慌てて咳払いをし、何とか取り繕うと首を左右に振って答える。

「いや、大丈夫だ。むしろこのままずっと続けて欲しい位だ」
「それは何よりです。でしたらこちらの方も、宜しいですか?」

そう言ってドゴラが次に示したのは背中でも脇腹でもなく太腿や足の裏に至るまでの箇所だった。そこは娼館での仕事中、毎度開かされたり四つん這いにされているせいで日頃から凝りやすく、自分で揉み解そうにも体格上中々手が出せない箇所だ。
しかし今はオイルの温かさとマッサージによる気持ち良さが相まって、普段より何倍も感度が増している。この状態でツボというツボを押されたら……と考えると、恐怖と期待で胸が高まってしまう。

「…勿論構わぬ。だが、儂の足裏はかなり硬いぞ? 処置している間に其方の手が痛くはならんか?」
「大丈夫ですよ。それにゴジラ様のような強い怪獣でも足裏が気になるのですね……勉強になります」

言葉が終わった直後、ドゴラの触手がそっと足裏に押し当てられる。確かにかなり硬くなった儂の足裏は彼の細い触手では簡単に力負けしてしまうのではないかと心配になる。だがその考えとは裏腹に、ドゴラは相変わらずの繊細な手つきで儂の足の疲れを取り除いてくれる。
足裏全体がじんわりと熱を持ち始め、ほんの少しずつだが足先が軽くなっていく感覚すらある。その間もドゴラの手が止まる事はなく、土踏まずをゆっくりと押し上げられながら指先まで丁寧に揉み解されると堪らず体が震える。これほど迄に意外かつ心地良い施術は初めてだ。

「んッ…あぁ……そこは……」

思わず漏れた声を聞かれてしまったかと思い慌てて口を閉じるが、更なる駄目押しならぬツボ押しと言わんばかりにドゴラの触手が儂の足指の間を揉み解し始めた。

「あッ、ぁ……!」

敏感な足裏をオイルで塗られた上に、満遍なくマッサージされて思わず体がビクついてしまう。当然こちらとしても演技ではなく本当に気持ち良くて声が出てしまったのだが、ドゴラは嫌がるどころか逆に淡々とした声色で問いてきた。

「どうされました?痛かったですか?」

いや、そんな事はないから大丈夫だと発言する前に、ドゴラの触手が足裏から遠ざかってしまった。……いかんな、早く次へ進んで欲しいばかりに思わず強がりな態度を取ってしまったか。

「すまない…っ誤解させてしまったようだ。決して痛かった訳ではない」
「本当ですか?もし無理をなさっておられるのなら遠慮なく仰って下さいね」

儂の言葉を素直に受け取ってくれたのか、心配される代わりに再びオイルに浸した触手を足裏に這わせ始める。ぬちゅり、ぬちゃりと淫靡な音を立てて足裏全体にオイルを塗り広げていく。先程とは打って変わって力加減が絶妙で、最も凝っているであろう土踏まずや踵といった箇所を中心にじっくりと揉みほぐされると腰から力が抜けてしまいそうになる程だった。

「はぁ……っ、ンン…♥」

そのまま何往復も丁寧に揉まれ続けると、やがて足裏全体がじんわりと熱を帯び始めてくる。時間が経つごとにドゴラのマッサージオイルが効いてきたのか、全身の血の巡りが良くなっていく感覚に思わず恍惚とした溜息を漏らす。あんなに硬くなっていた筈の足裏から疲れが取れていくと同時に更には心地良さからかくりと力が抜けてしまい、無意識に口が開いてしまう始末だ。
そんな中、残りの触手が脹脛から膝裏と足首の間を揉みほぐし、長い舌のような感触で執拗にぬるりと脛をなぞるものだから、儂はたまらずシーツを掴んで悶絶してしまった。

「あッ!んあぁ……♥」

これほど迄に快感を感じたのは何年振りだろうか。くすぐったいような気持ち良いような感覚がじわりじわりと躰全体に広がっていき、思わず声を抑えられなかった。こんな声を出したら流石にドゴラも興ざめするだろうと思い慌てて口を噤むが時既に遅く、『もっと聞かせて』と言わんばかりに足裏の敏感なツボを強めに刺激し始める。

「はぁ……ッ!? ぅあ゛ッ♥!だ、駄目だ…そこはっ! ああぁっ!!」

あまりの気持ち良さに儂は堪らず連続で大声を出してしまい、我慢出来ずに尾をくねらせる。こんな調子ではとてもじゃないが娼館でいつものように“雌堕ち”している時と変わらない。頼む、これ以上刺激しないでくれ……と言う前にドゴラの触手が膝裏へそろりと這うとそれだけで快楽が倍増し身体が大きく跳ねる。

「くゥ…ッあぁ……♥!」
「我慢なさらなくて大丈夫ですよ。ここは防音対策もされてますので、どうかお好きなだけ叫んで下さいね」

ドゴラの触手が膝裏から腿の内側までじっくりと這い上がってきたかと思うと、そのまま内股をマッサージするように優しく揉み始める。さもすればこのまま果ててしまいそうな程の強い快感を少しでも逃そうと背中を反らすが、更なる追い討ちとばかりに反対の脚の内腿にドゴラの手が触れてくるものだから堪らず嬌声を上げる。

「んぁあ゛ッ♥♥!? あ……ああっ、そこも駄目なのにぃっ! あっ…あぁっ♥♥」

既に何度も娼館で客を取ってきたが、こんな心地良い辱めを受けた経験など数少ない。大半はいつも儂の体を貪るだけ貪って、すぐに果てて帰るのみの下等な男達とは全く違う。
ドゴラはこのマッサージルームに足を踏み入れた時から今に至るまでずっと慈愛に満ちていて優しかった。こうして儂が乱れた姿を晒しても自分から『やめて欲しい』と懇願しない限り延々と施術を続けてくれる。

「ンぅう…っド、ゴラぁ♥ ……ッはぁあ♥♥!」

堪らず無意識に名を呼ぶと、マッサージしていた触手の動きがピタリと止まる。しまった、余りに気持ち良すぎてつい用もなく名前を呼んでしまった。いくら気持ち良くとも相手は一介のマッサージ師であって客ではないのだからこれはいけないと思い慌てて訂正する。

「す、すまぬ、違うんだ! 今のはつい弾みで……あぁあっ♥!」

儂の言葉を遮るかのようにマッサージが再開される。今ので不快にさせてしまったのかと内心不安になりつつも快楽には抗えず、寝台の上に突っ伏してシーツを握り締める他なかった。もうとっくに我慢汁が溢れているであろう自らの男根もしっかり興奮しているし、羞恥心から来る心地良い恥ずかしさも相まってか躰全体がいつも以上に熱く火照っているのが分かる。今のまま後孔に筒状の異物を挿入されでもしたら、きっと堪えきれずにイってしまうだろう。

「はぁ……ッ♥!んぅっ、ああぁ…♥♥」

駄目だと分かってはいるものの腰が揺れてしまうのを止められない。敏感な内股を撫でられる度に身体中が甘い痺れに襲われるのだ。もう我慢できないと覚悟を決めてぐっと瞼を閉じると、不意にドゴラの手が儂の内腿を離れたかと思うと徐ろにマッサージオイルの入ったボウルへ伸ばされた。その事に思わず安堵の溜息を漏らしかけたが、今度は尻尾の付け根―――即ち件の箇所に最も近い場所を揉みほぐし始めたのだ。

「んはぁあッ!?♥♥」

突然の事に驚き思わず尾が跳ね上がる。オイルマッサージの効果で感度が増している上、内側と外側から弱い所を責められたので反射的に上半身を起こしてしまう。こんな状態で鼠蹊部を揉まれなどしたら確実に果てる!そう危惧して再び寝台に伏せようとするも時既に遅く、触手による施術を再開されてしまう。

「うぁっ♥ あ゛ぁ……んあっ♥♥!」
「いかがですか?少し力加減が強いですか?」

ドゴラの触手が執拗に臀部を揉みしだき、その度に尾の付け根や鼠蹊部をマッサージされると否応なしに声を上げてしまう。辛うじてうつ伏せの姿勢を保っているものの、足腰はすっかり蕩けきってしまい、シーツを握り締める両手も腕もがくがくと震え始めた。

「ひぃ……ッ♥!ああぁッ♥♥!」

最早声を我慢する事すら出来なくなった儂の様子を見てドゴラが問いてきたので首を横に振ると、彼は満足気に頷きながらより一層力を込めて尻を揉んでくる。

「っ、ぁ♥♥!あぁ……ンぅうう♥♥!!」

尾の付け根を揉まれる度に腰を震わせ、限界が近い事を訴えるように儂が獣のような声で啼くとドゴラもそれに応えるようにマッサージを強めてきた。一際強く臀部を揉みしだかれながら尻尾の根本に指を這わされると頭の中が真っ白になり、遂に絶頂を迎えてしまう。

「あッ……!! イっ────~~~っっ♥!!」

が、そこまでだった。あともう少しで果てそうだった所で急に触手を離されたのだ。

「へ……あ? あぁあ…」

途端に押し寄せる物足りなさに切なげな吐息を漏らすが、何も言われずただただマッサージを続けられてももはや体の熱は治まらず、もどかしさから自然と腰を揺すってしまう。今まで感じた事のない程の寂しさに苛まれていると、ドゴラは新たな指示を出してきた。

「名残惜しい所申し訳ございませんが、ここからはうつ伏せから仰向けになって頂けますか?」
「ぅあ……わかった……」

果てる事が叶わなかったもどかしさを抱えつつも、ドゴラの言う通りに体勢を変えるということは、無抵抗の腹部を曝け出すばかりか、ひどく発情中の恥ずかしい箇所をまさぐって貰う事に他ならない。だが羞恥心よりも体の火照りを鎮めたい欲の方が勝っており、言われるがままに仰向けになる。
息を荒げつつ仰向けになると、むわりと雄特有の熱気が鼻を突くと同時に案の定そそり立った自身が顕になるが、それでもドゴラは感嘆も引きもせず相変わらずの静かな佇まいで儂を見守っていた。

「恥ずかしがらなくても大丈夫です。貴方様の溜まりに溜まった疲れが完全に取れるまで、私共がしっかり施術致しますからね」

穏やかな口調で宥めつつドゴラは新たにボウルへオイルを追加すると、触手をそこに漬け、仰向けになった儂の両脚の間に滑り込ませる。そして先程と同じようにマッサージを開始したのだが──。

「んぅ……ッはぁう♥♥!」

今までとは打って変わって敢えて勃ちっぱなしの箇所に触れてくれないばかりか、後孔を掠めるか掠めないかという絶妙な力加減で揉みしだかれる。だがその優しい刺激さえも今の儂には充分過ぎる程の快感で、もっと強く激しくして欲しいと言わんばかりに腰が震える。

「はぁ……ッ♥!あ……あぁ♥♥」

そのまま誰かの指先で胸や腹筋といった敏感な箇所までなぞられると、それだけで達してしまいそうになる程躰がびくびくと痙攣してしまう。もう既に雄茎はだらだらと嬉し涙を垂らしながら限界まで反り勃っているが、それでもドゴラの施術は止まらない。

「うぁ……んくッ♥♥!あぁ……またぁっ♥♥!」

ザラザラした胸筋を撫で回されながら脇の下や鼠蹊部を指圧されるとたまらず身悶えしてしまうのだが、絶頂に至るには弱過ぎて逆に辛くなってしまう。相変わらずモノの先端には一切触れて貰えず、そのすぐ側の皮膚や筋肉だけを刺激され続けている状態だ。それはまるで果てのない焦らし責めのようで、目から涙を零しながら延々と喘がされ続ける。

「はぁっ……くぅ……ッ♥♥!んんっ♥、はぁアぁあ……っ♥♥!!」

絶えず寸止めされているせいで全身の感度はとっくに限界を超えており、少しでも強い刺激が与えられればすぐにでも果ててしまうだろう。しかしそんな儂の状態を分かっている筈なのにドゴラは何もしてくれないのだ。それどころか一旦愛撫を止めると少し困ったような仕草で頭部に手を当てると、どうしましょうと言いたげな様子で小首を傾げた。

「お客様の躰は酷く凝り固まってしまっていますね。応援のスタッフをお呼び致しますので少々お待ち下さい」
「はぁ……はあっ♥? な…何じゃと……?」

思わず間の抜けた声を出してしまった儂だが無理もないだろう。この状態で一人にされるという事は最早死刑宣告に近いのだから。今すぐ前を慰めて果ててしまいたいのにドゴラはそれを許してはくれない。それどころか離れていく背中を引き留めようと躰を動かそうとするも、快楽に溺れきった今の体では指一本動かせずただただ悶える事しか出来ないのだ。

「私共の配慮が足らず申し訳ありません。あ、来ましたね。さぁさぁ、こちらへ」

直後、ドアのある方向へ向かってドゴラが手を翳すともう一体のドゴラが部屋に入って来た。恐らくテレパシーか何かで遠隔的に呼び寄せたのだろうが、そんな事など考える余裕もなく儂は目の前のドゴラに向かって熱っぽい視線を送ることしかできない。

「お待たせしました。…実はこのお客様、随分体が凝り固まっているようでして……私共では手に負えない程なのです」

ドゴラは新たに入ってきたスタッフもといもう一体のドゴラに事の詳細を説明すると、呼ばれた方がそれに応えるように胸を張ってこう言った。

「ええ、お任せ下さい。このような際には躰の奥底から揉み解し、溜まったものを吐き出させる事が肝心ですので」

すると次の瞬間、二体のドゴラは儂の頭部と下腹部にそれぞれ着いたかと思うと、各々の触手を胸部と臀部に這わせ始めた。

「あ……んふぅうっ♥!お、おぉ♥♥」

今までの施術とは異なるぞわぞわとした心地良さに思わず声を上げて身を捩るが、そんな事をしても触手の愛撫は止まらないどころか益々激しさを増していくだけだった。マッサージというよりは本当に揉み解すかのような力加減で胸筋を揉まれ、腋や横っ腹といった部分を容赦なく擦られる。
ただでさえオイルでてらつく無数の触手によって全身を愛撫されているというのに敏感な箇所まで犯されるものだからたまったものではない。儂は歯を食い縛り、足指をぎゅうと握り締めながら快楽に耐える他なかった。

「っ♥♥!う……くぅっ♥」

それでもなお懸命に堪え続けていたがモノは一層太い血管を浮き立たせて勃起し、先端からは白濁の玉の如く先走りを垂れ流している。そんな状態になってもなお決して直接的な刺激を与えて貰えないのだから、もう限界なんてとっくに通り越し、無様に刀身がぶるぶる震えるばかりだ。

「あぁっ♥!はぁ……んぐゥっ♥♥!」

もうイキたい、早く射精したいという一心で股間を突き上げるも相変わらず触手は検討違いの箇所を這い回り、一向に緩む気配はない。それに引き換え此方はとっくに限界を迎えているというのにこれでは生殺しも良い所だ。
舌を突き出し、息を荒げて「イカせて」と強請りそうになる中、どちらかのドゴラの触手が儂の頭を優しく撫でると優しく穏やかな声でこう語り掛けてきた。

「大丈夫ですよ。快楽に身を委ねて、委ねて……そのまま絶頂へと至るのです」

その言葉に誘われるように儂はゆっくりと目を閉じると、全身の力を抜いて躰を預ける事にした。──もう充分頑張っただろう、たまには自分に甘くても罰は当たるまい。そんな言い訳を誰にするでもなく脳内で独り言ちると、焦らされ続けた躰の赴くままに快楽を享受する事にした。

「あ゙っあァあぁっ!♥♥♥イクっ、んはっ……あっ♥! イッぐうううぅうぅッ!!♥♥♥」

全身が、脳内が、強烈なアクメによって激しく沸騰すると同時に躰の内から熱いものがせり上がってきてモノから勢い良く精を噴射させる。その最中にも腰は意思に反して玩具のようにカクカクと動いており、その弾みで天井のみならず床までも白濁で汚してしまう。

「んひ、ィイ……♥♥!あぅ゙うっ! あ゙ぁ…はー……ッ♥♥!」

これまでにないほど長い吐精をした後も儂の躰はまだ物足りずにいるらしく尚も小刻みに腰を震わせ、口をだらしなく開いたままに甘イキしながら蕩け切った声で喘ぐばかりだ。その間もドゴラ達による施術は絶えず続けられているようで、胸をぐにぐにと揉みしだかれる度に声をあげ、脱力した躰をびくつかせて、男根からまたもや白く濁った粘つく糸を流してしまう。

「んあぁっ……♥!ッはーー…♥♥!はーっ…♥♥!ふあぁあ♥」

やっと絶頂の余韻が治まると同時にぐったりと寝台に体重を預け、ゆっくりと呼吸を整える事にした──のだが、まだ足りない。
マッサージも行為自体も気持ち良いのだが、体の奥には何かが足りない。深い絶頂に至ればこの苦しさから逃れられるとばかり思っていたがそれは間違いだったようだ。躰の火照りは全く治まらず益々貪欲になり、より強い快楽を──未だ手付かずの後孔にもこの極上の“神業”を味わわせて欲しい、そう思わずにはいられない程であった。

「はぁあ……♥♥!うぅっ、た…頼みがあるのだが、もし其方らが良いというのなら、ココもぉ……♥♥!」

脚を思いきり開き、既に熟れてひくつく後孔を堂々と晒しながら期待に満ちた視線を二体のドゴラへ送る。ここまでしてはしたない事を頼んでしまっているのだ、羞恥で顔も躰も火が出そうな程熱くなるのを感じる。だがそんな事もお構い無しに彼等はその触手を儂の窄まりへと近付けてきた。

「畏まりました。どうぞ、力をお抜き下さい」

またもやどちらかが答えたのかも判らぬままに、忽ちぐじゅりと湿っぽい音を立てて何本もの細い触手が侵入してきた。突然の事に一瞬驚いたものの嫌悪感等は一切なく、それどころか肉壁の襞をひとつひとつ撫でるような動きでこちゅこちゅと体内を犯されていくにつれてぞくぞくとした悦楽が生み出される。

「んう……ッ♥♥! あ゙、ぁああ……♥♥」

オイルの滑りでにゅるにゅると簡単に抽迭されればされる程に肉壁がきゅんきゅんと戦慄き、既に感度が天井知らずとなった雄膣を広げられる度にいやいやと頭を振るが、触手の動きは止まる事無く執拗に内壁を撫で続ける。

「はぅうッ♥♥! く……あぁっ♥♥ ひぃッ!んくゥッ♥♥♥」

内部に触れられただけでこのような痴態を晒していては攻められている最中に気絶してしまうかもしれない。そんな事実に今更気付くが既に手遅れだったようで、何時の間にか前立腺を2本がかりでずりずりと撫で上げられた途端に視界が真っ白に染まる。

「んぉ゙っ♥♥!? あ……アぁあ゙〜ッ♥♥! ひィぐゔうぅゔぅぅうっ♥♥!!」

触れてもないのに男根が垂直に勃った途端にびくんびくんと震え、失禁さながらに潮を噴き上げた。
雄でありながら後穴への性感によって何度もイカされた事はあるが、今まで相手してきた者達と明白な違いは決して独り善がりに儂を凌辱することはなく、“癒やし”という名目で的確に此方の悦い箇所だけを重点的に責めてきた点である。慈悲深い手際の良さだが、逆にここまでされると溶けて戻れなくなってしまうと戦慄せざるを得ない。だが決して悪い気はせず、寧ろもっともっとこの快楽を味わいたいと思うようになってしまっているのも事実だった。

「はー……ッ♥!はぁっ…んぅうっ♥♥」

ぐずぐずに熱された精液がびゅっ、と噴出され、腹筋をしとどに濡らしたのを感じた瞬間、小刻みに躰を震わせて思う存分強烈な中イキを極める。その最中も胸や腹、臀部といった柔らかな肌を揉みしだかれれば更に深く絶頂を重ねてしまい、口端からはだらしなく涎をこぼし続けていた。

「はへぇえッ♥♥! もっと……もっとぉっ♥ んぎっ♥ああぁんっ♥ぁあぁあ♥♥」
(マッサージがこんな素晴らしいものとはっ、初めてぇ…♥♥)

しまいめには何の遠慮もなくシーツの上で艶かしく尻を振り、発情した雌犬のように腰をへこ♥へこ♥と前後させながらもっと激しく嬲って欲しいと懇願する。
スペースゴジラが此処に何度も通うのも判る気がする。この性感マッサージはこちらがどんなに無様な体勢や下品な言動でおねだりをしようとも決して軽蔑や非難もせず、それどころか言われるがままにその箇所をとことんまで甘やかして来るのだ。依存しないはずが無い。

「畏まりました、お客様。貴方様の疲れや嫌なことを全部忘れてしまうような施術を最後まで致しましょう」

こんな痴態を目の当たりにしても、ひたすら受け入れてもらえるという事実が何よりも嬉しくて、目から歓喜の涙が落ちる。それを見たドゴラ達は儂の体を左右に挟むように着くと、愛撫一辺倒だった各々の細い触手を開かれた太腿にぞろぞろと絡め始めた。

「は、っあぁん……♥」

触手の先端が後孔に触れると挿入された時の事を思い出して切なく吐息を洩らした直後、触手達は一斉にその躰を伸ばし始め、尚且つ先程より本数が増えた細い触手達が入り交じって狭い肉筒を荒々しく掻き回す。特に長い触手が幾本も結腸口をずちゅずちゅとノックされる度に足先がピン、と伸びて爪先立ちになり、顔は涙や涎で酷い有様だ。だがそんな事に構う暇など無く、今はただひたすらお返しとして熱く滾る肉襞全体で触手を舐めしゃぶり続けるばかりだ。

「あ゙ぁっ♥♥!イイッ♥もっとッ……ひぃいんっ♥♥!!すごぉ、いぃっ♥♥♥!まら゙イくっ、イクゥゥッ♥♥!」

白眼を向き、小刻みに躰を震わせながら大声で叫ぶと肉壁がきゅうううぅぅ…っ♥と締まり、屈強な四肢に甘く切ない痺れが走った。太股や腹を撫で回されてはそれだけで軽く絶頂し、内部への淡々とした男根の抽迭だけでは得られなかった悦びに頭が蕩けてしまいそうだ。

「んへぇっ♥♥!はひぃっ♥♥ あ゙っあぁぁああっ♥♥!!あ゙はぁあ……ッ♥ !無理ぃ…ケツま○こも、クるぅうっ♥♥♥!!」

止まらない快楽に卑猥な言葉を喚きつつのたうち回りながら何度もドライオーガズムを迎えてしまい、雄膣はびくんびくんと痙攣して触手を締め上げる。
それでも触手は絶対に離れず、浅ましく揺れる男根を絡め取ると2体がかりでシコシコ♥と優しく激しく責め上げられる。雄に雌──二つの性器を同時に愛撫されているような淫悦に溺れ、顎を仰け反らせれば胸板にも容赦ない愛撫を施されて瞬く間に追い詰められてしまう。

「あ゙ァッ♥♥!!んうぅ゙うッ、出ゔっ♥♥♥!らめぇ♥ またせーえき漏れちゃ……っ♥♥」
「これで最後になります。大いに射精して下さいね、お客様」

耳許でドゴラが優しく囁いたのを皮切りに、全てを解放せんばかりの未曾有の快楽と絶頂の波が背中を駆け抜け、男根を中心に一気に迸った。

「ふああぁあ゙ッ♥!!イクううぅうっ、イッぐぅっ♥♥!あ゙っあぁああぁあ♥♥!」

肉壁が激しく蠕動し、拘束された男根の先端からびゅうっ♥ぶしゅっ♥♥と吹き出す粘液。精液とも尿とも潮ともつかぬモノが絶えず噴き出し、そのまま延々と達し続けてしまう。

「んはぁ〜〜〜ッ…♥♥♥ んひぁあ…あっあぁああ゙ぁあ……〜〜っ♥」

溜め込まれた精液を最後の一滴まで放出し終えると、激しく身悶えていた躰の力が一気に抜け、どさりと寝台に寝そべってしまう。シーツも全身も生温かく粘つく液体がこびり付き、独特の臭いが立ち込めていた。

(あぁあ…何と幸せなんだ……♥)

これまでにないほど汚らしく淫猥な光景にも関わらず、どちらかのドゴラがまたもや儂の頭を撫で、触手がやさしく頬を撫でる度に蕩けきった幸福感に包まれる。まるでこの世の天国のような心地良さに浸りつつ、無意識に蕩けた笑顔まで浮かべてしまう始末だ。
最早娼館に勤める際に課せられた指名などどうでも良くなり、今は恍惚と安堵の海に揺蕩うまま、意識を深層に沈めていった。

 

 

淡く灯るダウンライトのぼんやりとした光が瞼に降り注いだ。
朧な光に少しずつ意識を覚醒させると、自分が新たに清潔なベッドの上に居る事に気付く。

(随分寝てしまっておった様だな)

散々弄ばれ、イカされたお陰で倦怠感が強く、まだ意識がはっきりしない状態で周囲を見渡すと、どうやら此処は先刻のマッサージルームではなく控室を兼ねた休憩室のようだ。
重い頭を抱えつつ、のろのろと起き上がってベッドから出ようとした矢先に部屋の中に入ってきたのは、儂を案内してくれたドゴラだった。

「おはよう御座います。よく眠られたようで何よりです」
「む……お、おはよう。其方に寝具まで整えてもらった様だな。助かったぞ」

どうやら相当な時間寝ていたらしく、夜が明け始めているのか窓の外は僅かに白んでいる。娼館の仕事を蔑ろにしてしまったかのような後ろめたさに苛まれながらも、儂は出来るだけ平静を装った。

「しかし、此処まで汚した上にひどく延長させてしまって済まなかったな」

申し訳無さげに目を伏せてそう呟くとドゴラは身動ぎもせず、尚も淡々とした口調で返答した。

「あぁ、それは大丈夫ですよ。お客様が寝ておられる間に我々が責任を持って処理をさせて頂きましたから」
「な…そ、そうか。それなら良かったのだが……」

心の内を見透かされたかのような返答に思わず動揺してしまったが、相手がそう言うのならば良いのだろう。 ドゴラの厚意を有り難く享受させて貰おうと、儂は気を取り直して身支度を整えた。

「ありがとうな。このお礼は必ず……」

礼を言い切る前に、言葉が詰まった。このまま娼館に戻れば「モスラを助けるため」という名目で人間やタイタン達相手に体を重ねる日々が待っている。それを想像すると、途端に気が滅入ってしまいそうだった。

「お客様、どうされましたか?もしかしてまだお悩み事が?」
「……っ」

そんな儂の心の裡を見透かしたかの如く、ドゴラが顔を覗き込んでくる。普段は表情すら読めぬ海月宛らの風貌で触手の動きがないと全く判り辛い印象だが、 今は僅かに心配そうな色が浮かんで見えた。

「あぁ……いや、何でもない。大丈夫だ」

幾らドゴラ達に癒やしてもらったとはいえ、このままではずっと辛いままだ。
これ以上、後戻りのできない泥沼に嵌っていく前に今ここで腹を括らなければならない。

「……済まないが、また此処に来ても良いだろうか?もし迷惑でないのなら、 もう少しこのマッサージをお願いしたいのだが……」

儂の訴えにドゴラは数秒間沈黙を保っていたが、やがて僅かに触手を揺らし始める。

「畏まりました。お客様のお役に立てるのならばいつでも喜んで。それと、もし宜しければ日頃から貴方様が相手していらっしゃるお客様方にも、ここの存在を宣伝して頂けると大変有難いです」
「む、まぁ構わないが……かなりの荒くれ者揃いで、たとえ其方でも相当に手を焼くかも知れぬぞ?それでも良ければ紹介させて貰おう」
「はい、宜しくお願い致します。では本日はこれで失礼致しますが、何時でも気軽にお立ち寄り下さいね。お待ちしております」

ドゴラ達は頭を一つ下げると、ゆっくりと部屋から出て行く。
来た時よりも体が軽かったのはマッサージのお陰もあるだろうがそれ以上にドゴラ達と対話して心が軽くなったからだろう。
やはり一人でくよくよと悩み込んでいてもどうにもならない。そういう時は誰かに相談するのが最良だ。

娼館での仕事が丸1日空いてしまったが、 代わりに極上の癒やしを得てからは悩みも薄れて久しく、晴れやかな気持ちで儂は帰路に就いたのだった。