一方で地上では―――未だ気絶しているイリスを傍目に、トトがジーダスと対峙していた。
「とんだ邪魔が入ったが…今度は俺が相手だぜぇ?」
「…っ!貴方なんかに、絶対負けない!」
トトの表情には微かな怯えが入っていたものの、それでも彼女は構えの体勢に入ると、改めて相手の目を見据える。
―――お姉ちゃんのように派手な戦いはできないけど、私だって「ガメラ」の一匹なんだ!だから、こんな奴なんて……
思案を巡らせている内、不意にジーダスは口から紫色の舌をトトの顔面に向けて放った。
強力な酸を含んでいるそれは、空を切る音を立てながら一直線に飛んでくる。
「…っは!」
当たる紙一重の瞬間に、トトは自分の顔を庇いながら地面に転げる。しかし、かわすタイミングがやや遅かったせいか、左腕に僅かな溶けた傷口ができてしまった。
「痛っ…!?」
「やっぱガキだなぁ。アンタが姉ちゃんの真似をしようなんざ、十年早ぇんだよ」
その頃には俺も兄貴越えてるかな、と呟きつつ、余裕綽々の様子でトトに向き直る。しかし彼女は屈した様子も見せず、ジーダスに向かって毅然と言い放つ。
「そんな事ない!私もいつかは一人前のガメラになる!透とそう約束したもん!」
「はっ…強がりを。そんなナメた口二度と叩けねぇ様に―――ッ!」
ジーダスが突如として絶句した。というのも、トトの後ろにもう一人、誰かが立っていたからだ。
“それ”は明らかに自分に向けて憤怒の表情を向けており、尚且つ陽炎に似た揺らめきを放っている。そして何よりも、“それ”は燃える拳を今にも振り上げようとしていた。
「オイ…嘘だろ、何でいつもアンタが……いや、ちょっと待ってぇえ!」
そこまでだった。唐突にジーダスが炎を上げて吹っ飛び、同時に断末魔が辺りに響き渡る。
その光景にトトは唖然と見ているばかりだった。
「今のは一体…」
何故ジーダスは吹っ飛んだの?思考を色々巡らせている中、ふと飛行音が背後から聞こえた。
振り向くと、そこには自分にとって母に等しい“姉”が立っていた。
「大丈夫か、トト」
「お姉ちゃん!ジーダスが大変な事に…」
トトが指差した先には、黒こげになったジーダスがぶっ倒れており、尚且つ顎に殴られた痕がくっきりと残っていた。
これには流石のガメラも唖然となり、再びトトの方を見る。
「お前が、やったのか?」
「違うよ!いきなりジーダスが吹っ飛んで、それから…」
「く…ぅ……ガメラぁ…」
トトの言葉を遮り、突如女性の声がした。しかしガメラは敢えてその方向を見ようとせず、音源の方に向かって冷たく言い放つ。
「イリス、お前の配下はこの通り全滅した。残るは…貴様だけだ」
語尾の部分で鋭い目線をイリスに向ける。口調ですらもほぼ殺気立っており、今にも彼女を葬らんばかりだ。
それを聞いたイリスもまた、固唾を飲むと同時に勝ち目がないと悟ると、唐突に大きな溜め息を吐くと、ガメラに負けず劣らず言い返す。
「今日はツいてないわねぇ。いきなり地震は起きるし、部下は役立たずだし。だけど今度会った時には必ず、私のモノにするわよ」
またね、と告げると、ふわりと浮遊し、そこらで倒れているジーダスを触手で拾い上げてその場から去ってゆく。
飛んでいる内、彼女はじっとガメラの方を振り向いたが、やがてそれも森を出た頃には真正面を向いていた。
「やれやれ…本当彼奴も懲りないな。ところでトト、ケガは?」
「うん…ちょっと掠っちゃったけど」
と、先ほどジーダスに溶かされた左腕を見せる。そこには確かに、数センチ程の切れ目が走っていた。
「そうか、今から手当てを「良いの、もう痛くないから。それより私、さっき落ちてきたモノが気になる」
命の恩人だし。そう付け足されると、納得するしかなかった。けれど、トトの表情に少し憂いが入っていたのは気のせいだろうか。
「……そうだな。だが、無理はするなよ」
「うん」