どれほど眠っただろう。朦朧とする意識の中、モスラはひどくゆっくりと瞼を開いた。
かすかに湿った石の匂い。空気は冷たく、光は薄い。
目を凝らすと、古びた木材をはめ込んだ天井が広がっていた。湿気で反り返った板の隙間からは、上階の床を支える太い梁が覗いている。
埃とカビの匂いが微かに鼻をつき、ここはもう、信仰の場としての役目を終えていることを告げていた。
(……古い部屋……?)
引き千切られた翅の痛みが、モスラの意識を引き戻した。
重い瞼を開けようとした、その瞬間。
――動けない。
身体を起こそうとしても、腕も脚も言うことをきかない。まるで寝台そのものに縫い留められているかのような、異様な重さ。
(……なに……?)
視線を落とすと、手首には黒鉄の枷。足首にも同じく重々しい鎖。
それぞれが寝台の四隅へと伸び、石床にしっかりと固定されていた。
(……拘束……? どうして……)
息を詰めながら、ようやく周囲に目を向ける。
左手には古い棚。右手には、小さな祭壇の名残のようなもの。
簡素な寝室――だが、ここは礼拝堂の奥に設えられた一室だと悟る。
そして、理由もなく理解してしまった。ここは、祈りのための場所ではない。
“堕落のために用意された空間”なのだと。
その直後、視線が自然と腹部へ落ちた。
「……?」
偽りの王に殴られた、その場所―――見覚えのない痕が刻まれている。
(……これは……?)
奴の翼を広げたシルエットを模したような紋様が、薄紅の光を帯びて脈打っていた。
ただの装飾ではない。そう理解した瞬間、指先が震える。
ソレに視線が交わされた、その刹那。
冷たさ。恐怖。抗えない力。理性を奪われる感覚。
流れ込んできたのは、彼女が誰よりも知る存在――ゴジラの感覚だった。
「……っ……!」
胸が押し潰されるように締め付けられる。
(メカゴジラが…やはりここに……?あの時、私の身体に…これを“刻んだ”……?)
理解が追いついた瞬間、全身が震えた。
これは刻印。共有。拘束。そして、“堕落”へと導くための楔。
「王……あなたは……今、どこに……」
言葉も、翅も、震える。刻印は嘘をつかない。
遠く、かすかに――ゴジラの“苦痛”だけが、微弱に伝わってくる。
「……!」
それだけで、足がすくむほどの絶望。モスラは、王の置かれた状況を悟ってしまった。
怒りと悔しさが、胸の奥で小さく燃え上がる。
(……ギドラ……)
唇を噛み締める。
(絶対に……許さない……!!)
そのとき――彼女は、鎖で封じられた自分の脚を見つめた。
この脚は、毒針となる。先の戦闘で、ギドラにそれを見られてしまった。
(……私の脚を、封じるため……!)
拘束の意味を理解した刹那、朽ちかけの壁越しから石畳を叩く足音がこだました。
「―――目覚めたか、女王サマ」
扉が軋むような音を立てて開き、ギドラが入ってきた。
片手には古びたカンテラ。だがその中で揺れているのは、火ではあり得ないような淡黄色の光。微かに脈打つように明滅するそれは、雷光だった。
それは、視界を補うための灯りというより――ギドラが“あえて光を許している”だけの代物だった。
相変わらず神父服の裾に濡れた跡はなく、ギドラは床を滑るように歩み寄り、その光でモスラの姿を照らし出す。
「……ッ!」
影がゆっくりとモスラを覆う中、彼女は息を呑みつつも、唯一できる抵抗としてギドラをぐっと睨みつける。
「……この鎖は、なんのつもり?」
「危険だからな」
ギドラは淡々と答えた。けれどその瞳には、あの嵐空の雷より冷たい嗤いが潜む。
「雛とはいえ、毒針を脚に顕すとは想定外だった。ひとつ腹を殴るだけでは大人しくならんと思ってな」
ニとサンも、背後から肩越しに覗き込んで嘲る。
「なぁ兄貴、あの針……刺さったら危なかったんだろ?」
「あれを受けたら、こっちが毒で墜落しかねなかったねぇ?」
ニ首の嘲りにも意に介さず、モスラは頻りに鎖を引くも、耳許で金属音が耳障りな程に高く響き、効果を成さない。
「これを外しなさい……ッ!」
怒りに満ちた声音にもギドラはため息すらつかず、ただ近付いてきた。
「脚を自由にしておいて、また針を向けられても困るからな。貴殿は“王を救うため”なら自分がどうなってもいい、そういう顔をしている」
「当たり前でしょう……! 王は―――」
歯噛みも交えて言いかけた途端、腹部の“刻印”が薄紅色に淡く脈打つ。同時に、王の身体から伝わる苦痛が流れ込み、モスラは苦しげに呻いた。
「く……ぁっ……!」
王の微弱な痛覚が流れ込み、声が震えて途切れる。
それを見て、ギドラは愉悦の色を隠しきれなかった。
「その顔だ。その反応が来るなら、やはり“刻印”は正しく機能しているな」
モスラは息を呑む。
(やっぱり……お前達が……王を……)
「心配するな、初めから逃がす気などない」
ギドラは寝台の縁に手を置き、軽くモスラの脚の鎖を指でなぞると、ちゃり、と乾いた音が響く。
「毒針も、翅も、ましてや腕力も今の貴殿には使わせぬ。それほどに、女王サマは危険視されている、ということだ」
「……私が? お前達に?」
「当然だ。“王”が最後まで抵抗をやめなかった理由は、我々ではなく―――貴殿だったのだから」
モスラの心臓がどくり、と跳ねた。
(……王が……私をずっと……?)
一頻り話すとギドラはわざとらしく肩をすくめ、声を低く、喉を震わせるように言う。
「その執念が、我々にとっては邪魔でな。だから、こうして確実に封じた」
「…………ッ」
「安心せよ。貴殿が再び暴れられないようにするのは、我らの務めだ」
聞きたくない。そう思っていても、眼前の偽りの王は優しげな口調のままで、淡々と残酷な真実を告げる。
「―――そして、お察しの通り“王”も同じように封じてある」
ギドラの言葉が終わった刹那、モスラの胸が激しく痛むのと入れ代わりに、刻印が応えるように脈動した。
しかも今度は淫らな感覚を伴っており、宛ら子宮をやんわりと愛撫されたかのようだ。
「く……ふぅ、っ……!」
モスラは額に汗を滲ませて身を捻り、唯一重ねられる太腿を擦り合わせて衝動を抑えようとする。しかし淫紋の甘い痺れは彼女の身体から抜けない。それどころか徐々に強まっていく一方だ。
「はぁ…あ、っ……ん……!」
小声ながら切なく喘ぐモスラに、ギドラは嘲笑する。
「クク……どうした? 随分と辛そうだな」
唐突に訪れた微妙な快楽から逃れようとして鎖を引いても、ただ金属音が虚しく響くだけ。ギドラはそのすべてを愉しんでいた。
「さて、女王サマ。ここからが本番だ」
ギドラが片手をゆるりと上げ、モスラの腹部をすっと撫でる。その傍らで刻印がどくん、と定期的に脈打った。
「ぁ……ふぅっ!?」
モスラは下腹部をひくつかせ、小さく声を漏らした。その反応を見てギドラは満足そうに目を細め、うっすらと浮かぶ腹筋をなぞるように細い指を動かした。
「ぅ…っやめろっ……! 触るな、っ…!」
モスラは切なげな吐息を漏らしながら身を捩り、ギドラの手から逃れようとする。しかし、鎖がそれを許さなかった。ギドラの指先は腹部から脇腹へと移動し、そのまま彼女の胸の膨らみを布地越しに軽く撫であげる。
「ふ……ぁっ……!」
モスラはびくりと身体を震わせ、甘い声を漏らす。
その反応に気をよくしたのかギドラはモスラの顎を持ち上げ、視線を合わせた。
モスラは嫌悪感を剥き出しにして顔を背けるが、ギドラはそれを許さないといわんばかりに指先で首筋をなぞり上げていく。
「やっ……!やめなさ、いっ……!」
「女王サマでも、そういう顔をするんだな」
拒絶の言葉をかけられてもギドラはわざとらしく驚いてみせながら、指先の動きを次第に大胆に変えていった。
先ずは胸元を隠すビキニトップスに掌を這わせ、横から顕になっている乳肉を捉えるとゆっくり揉みしだく。
「っ! い、いやっ、触らないでっ!」
悲鳴にも似た拒絶が部屋中に響き渡ると、ギドラは首を傾けて、低くくつくつと喉の奥で笑う。
「声が上擦っているな、女王よ。先程までの刺々しさがなくなって……ひどく可愛らしい反応をしてくれる」
モスラの両乳房を鷲掴むようにして撫で回し、時折指先が布越しの突起に触れそうなギリギリの位置で焦らすように指先を揺らす。その微弱な刺激にモスラは呼吸を乱し始め、胸に血液が集中していくのを感じた。
「あ……くぅっ…!」
(いやぁっ…! こんな卑劣な真似をされて、感じてるなんて……!)
ぐにぐにと、肉が圧迫されるほどに強く揉まれ、モスラは思わず小さく声を漏らした。
「感じてきたか? このまま快楽を愉しむのも悪くないぞ」
「ふざけ、ないで……っ!」
怒りに任せ怒鳴りつけるが、ギドラは意に介さず弄ぶように愛撫を続ける。その内に胸を包んでいたビキニトップスから人差し指を引っ掛けて乳房全体を撫で上げ、指の腹で頂点の突起を軽く押し潰す。
その度に触れられた箇所から甘い電流が走り、モスラの体が大きくぴくん、と跳ねた。
「あぅうっ!……く、っ……」
「……いい反応だ。もっと見せてくれ」
「や、ああぁっ!」
ギドラがモスラの乳房を布越しに鷲掴みにし、強く揉みしだく。同時に淫紋が激しく脈打ち、彼女は身を捩って悶えた。
そんな中、頭上―――ギドラの左右のどちらかがひとつため息を吐き、続いて各々が不満を漏らす。
「兄貴ばっかズルいなぁ……俺も触りたいんだけど」
「早くこの布切れ退けてよ〜。全然楽しめないじゃん」
両者とも口調は違えど、『とっとと乳房を露わにしろ』と抗議しているのだ。
しかしギドラはモスラの乳房を布越しに撫で回し、責め立てる手を止めない。
「そんなに急かすな。女王サマがその気になってくれないと、な……」
「その気も何も……っあ…! お前が、私の身包みを剥がせば済むことでしょう……!」
モスラが睨みながら罵声を上げるも、とうの相手は意に介さず、薄ら笑みのままで返答する。
「貴殿が嫌がっているままだと、どうも無理矢理にしているようにしか思えなくてな…我々としても後味が悪い。それに、女王サマも内心ではこの状況を楽しんでいるのだろう?」
「な……!」
ギドラはモスラの眼前―――それも接吻しかねない距離で口を寄せ、囁きかけた。
「先程脚を捩らせた時、何やら水音がしていたぞ? その音はどこから響いたものだったか…教えてくれないか?」
「っ……!」
モスラは顔を紅潮させ、唇を噛んだ。
そんなこと、言えない。言えるはずがない。だがギドラはそんな彼女の羞恥心すらも愉しむ。
「やはり女王サマも、『身体』で籠絡しておくべきかな……ふふ」
直後、淫紋が淡い輝きを放ち、モスラの下腹部をじんわりと熱していく。しかも今度は先程とは違い、強く炙られるような感覚が彼女を襲う。
「ふぁ……! あ、ぁ、あつい……!」
「おっと…“彼奴”め、また拒んだか。なんと強情な奴よ」
彼奴……ゴジラのことだ。
王を護れない自分が情けなく感じ、モスラは強く目を瞑って涙を堪えるが、ギドラはそれを無視して嗜虐的な笑みを浮かべるだけ。
その間も、淫紋の熱と疼きは彼女の身体を侵食しつつあった。
(だめっ……ここで堕ちたら、ギドラの思う壺なのに……!)
モスラが必死に理性を保とうとする中、彼女の腹部に刻まれた刻印は光を増し、淫紋もそれに応じるかのように熱と疼きを強めていく。
「あ……ぁあっ……!」
モスラは切なげに声を漏らしながら身を捩るが、鎖のせいで逃れることができない。それどころか、その動きがかえって淫紋を刺激してしまい、さらに強い刺激となって彼女を苛む。
(絶対に、王を助ける為にも……ッこんな奴には…!)
ギドラの指先がビキニトップへ触れた瞬間、モスラは本能的に身を捩った。
「ひ…ッ! やめて、それだけは……」
だが、いくら暴れようと四肢を縛る鎖は、その小さな抵抗すら許さない。
その内―――軽い衣擦れの音とともに、隠されていた対の丘が開けられる。
「……いや……っ」
顔を背けるモスラの顎を、ギドラの手がそっと、しかし逃がさぬ強さで捉えた。
金色の瞳が、露わになった彼女の双丘にゆっくりと焦点を合わせる。
「ふむ……実に見事なものだ」
「くぅっ……!」
その声に、モスラは息を呑むと顔が熱を持ち、思わず瞼を強く閉じる。
否定したくても、声が震える。
ギドラはその反応を楽しむように細く笑うと、左右の首へ静かに目配せした。

