嵐とともに迫る殺気の中、ゴジラはゆっくりと身を起こし、静かに立ち上がった。
「……良いだろう」
その声に、恐れも焦りもない。
ただ、“王”としての風格だけがあった。
背中が語る「受けて立つ」の気迫に、モスラは思わず息を呑み、その姿から目を離せずにいた。
やがてゴジラは一度だけ深く息を吐くと、吹き荒ぶ嵐に背を向けるように振り返り――モスラの方から視線を離さないまま、どこか痛みを押し殺したような声音で告げた。
「モスラ。其方はどこかに隠れていろ。
これ以上深手を負って死なれては……儂は……」
言葉が、途中で途切れる。
如何にも嗚咽が漏れてきそうな痛ましい沈黙を受け止めるように、モスラは静かに首を振った。
「いいえ。私も、あなたと一緒に戦います」
凛とした、まっすぐな声だった。
「しかし――」
「心配しないでください。
むしろ……こんな時に“また”私だけ隠れているなんて、その方がずっと耐え難いです」
「!」
ゴジラの瞳が、はっきりと揺れた。
モスラはその視線をまっすぐ受けながら、毅然とした言葉を重ねる。
「次も私があなたを護ります。今度は、絶対にひとりにしません」
再び、しばしの沈黙。
傷だらけなのにまだ戦うと言う彼女に、ゴジラはしばらく何も言えなかった。
代わりに、小さくため息をつく。
「……ふむ。本当に困った女王だ、其方は」
台詞こそ呆れていながらも、続いた声は彼女自身を抱擁するが如く、とても優しかった。
「好きにするがいい。共に行こう、モスラ」
「はい……!」
怪我はまだ残っている。それでもモスラは朗らかに微笑み、傷だらけの翅を大きく広げた。
身長差のある二つの影が、朝焼けの手前で静かに並び立つ。
その先――怒り狂う黄金の嵐と、無数のタイタンたちが迫っていた。
二体は歩み出す。
――互いに愛する者を守るため。
――奪われた誇りを取り戻すため。
――地球の頂点と、それに寄り添う者として再び立つために。
【終】

