鼻腔を擽る湯気の匂いと、硬い体表を這う湿った熱に、ぼんやりと意識が浮上する。
そこは岩場――を模した、怪獣専用の広大な浴場だった。壁には窓がなく、今が夜更けのままなのか時間を知る手段もない。ただ揺らめく蒸気とぬるりとした水音だけが、現実を突きつけてくる。
(……夢じゃない、か)
寝惚けたまま起き上がろうとした、その瞬間。
ごぽり。
ひどく生々しい音とともに、後孔から熱いものが滴り落ちる感覚に襲われた。瞬間、全身が粟立つ。
(っ……!?)
その量は尋常ではなく、まるで自分の腹が水袋か容器であったかのような錯覚さえ覚える。やや膨れた腹の内側がじんわりと熱を持ち、嫌でも思い出す。
ギドラが幾度となく吐き出した、濃く重い精の感触を。
「っ……! ギドラの奴め、一体どれだけ儂の中に出したのだ……まったく」
悪態をつくものの、不快感は拭えない。男娼としてこの汚濁を垂れ流すことには慣れたつもりだが、それでも羞恥と屈辱は消えなかった。
しかもこのもうもうと上がっている湯気のせいで、あの金色の龍がどこにいるのかもわからない。まだ身体の感覚が戻りきらぬままどうにかして情交の痕を洗い流そうと、おそるおそる立ち上がる。だが、脚にうまく力が入らず、ふらついた拍子に――
バサリ。
濃い湯気の中から伸びてきた巨大な翼に、するりと支えられた。
「大丈夫か、我が伴侶よ」
「俺らがちょっと目を離した隙にコソコソすんじゃねーよ、元怪獣王サマ」
「!?……ギドラ?」
まさか、こんな近くに……。驚きに身を引こうとしたが、それより先にニとサンが首を伸ばし、こちらを覗き込んできた。
「おいっ、何をする!? さっさと離れろ!」
「何言ってんだよ? そんなフラフラの状態で説得力ねーっての」
「そーそー。それにさっきの聞こえてたよ? “どれだけ儂の中に出したのだ”ってね。先程は君も案外ノリノリだったじゃないの」
「ぐぬ……そんな訳は……!」
否定しようとしたが、喉奥で言葉がつかえる。
そうだ、あれは生き血の影響で無理やり発情させられたせいだ。ギドラの言葉攻めに煽られ、半ば狂ったように腰を振らされたにすぎない……。
だが、それを口に出せば、それこそ「淫乱」と自白するようなもの。
それにこの浴室には時計もなく、時間の経過もわからない。いつギドラとの行為を終えられるのか、その見通しすら立たない。
(……早く満足させて、帰ってもらわねば)
そう考えた瞬間――視界の端にギラリと光るものが映った。
先ほどまで儂の内を抉り、穿ち続けた二本の陰茎。
湯気の中でなお主張するようにそそり立つそれらを見た瞬間、体表がじんわりと熱を帯び、ぼんやりとした薄紅が差す。それだけのことで喉が小さく鳴り……気づけば――我知らず、口が開いていた。
(まだ勃ったままなのか? いかん、魅入られては……)
駄目だ、見るな。
硬直していたら、また犯される。そう分かっているのに身体は逆らうことすら許されないほど熱を帯びていく。
……案の定、誤魔化しようのない変化に気づいたギドラが肩を竦め、愉悦に満ちた視線を向けながら、ゆっくりと首を伸ばしてきた。
「ふっ、もう辛抱できぬと言ったところだな。ほら、コレをどうしたいんだ? ゴジラ」
「な、何故わざわざそれを言う必要があるのだ、この色惚けめ…っ」
「それは貴殿がよく知っていることではないか」
見透かされた羞恥心が、一層煽られる。
だが、理性とは裏腹に──身体の奥底では、ギドラのソレを求めるように疼いていた。
(いかん、そんなこと思ってはならぬというのに……)
既に夜明けは来ているかもしれない。しかし生き血に狂わされた本能は、それ以上の行為を望んでいた。
ほんの僅かな休息すら許されない。
自分はかつて王として君臨した身であり、何時までも玩具のように扱われるわけにはいかない。……そう考えながらも、全身がじわじわと熱を持ち始める。
「くく、身体が一層強く灯っているぞ。まさか、このまま何もしないで戻るつもりかね?」
「ちょうどお掃除をお願いしようと思ってたんだけどなぁ〜? 元怪獣王サマって案外冷たいんだね」
「サン、助言すんなって。こういう時は奴から進んで動くように促すんだよ」
「……っく……!」
各々が好き勝手に言いながらも、すでにギドラの魔羅から目を離せない。
(このまま居ても、どうせまた詰られるだけ……ならば──)
覚悟を決め、ギドラの足許に跪く。
そっと舌を伸ばし、それぞれの先端に軽く触れると、ギドラの身体が小さく震えた。
「うくぅっ……んはぁっ、ぅ……んん…♥」
熱のこもった呻き声を漏らしつつ、竿全体をゆっくり舐め回す。亀頭の鈴口をなぞるように吸い上げると、溢れ出る先走り汁が舌先を濡らした。それすら甘美と感じてしまう自分に、僅かに嫌悪が過る。
けれども、そんな感情はギドラの反応が掻き消した。徐に裏筋を指で優しく揉むと、イチが快楽に抗えぬような甘い声を漏らす。
「はぁ……その調子だ。先程まで貴殿を狂わせていたモノに、ここまで美味そうにしゃぶりつくとは……」
頭上から降り注ぐ甘い吐息。
それだけで胸の奥が疼き、無意識に下腹部に力が入る。
(早く終わらせたい……はずなのに)
咥内はますます潤みを増し、奥深く挿入されたペニスに強く絡みつく。分厚い舌が淫らな音を立てながら、ピストン運動を繰り返す。
一方、手付かずのもう一本は先ほどと同じようにカウパーを潤滑油にしながら扱き上げ、なるべく早く奴を達せられるよう奉仕を続けた。
「んぐっ、ふぅっ……!♥ ぢゅるっ、んはぁッ♥ ンんぅ~ッ……♥♥」
「あはは、普段はすっごくお硬いのに、誰かのおちんちんを見るとすぐ発情する雌犬みたいだねっ。ホント可愛いよ……ゴジラ」
余裕ぶった口調にも、合間に荒い吐息が混じる。時折肩を撫でてくる飛膜にも、微かな震えが伝わってくる。
こいつらも、そろそろ疲れてきている……。
(ならば……)
そう考えた瞬間、自ら喉奥まで一気に飲み込んだ。
ぐぼっ……!
予想外の動きに、ギドラが戸惑う。その隙を突くように腰が突き出され、必然的に気道を塞がれるも、お構いなしに奥を強く吸い上げる。
「へっ!? ちょ、ちょっとゴジラ……待って、そんなにシたら―――あひ、あぅうっ!♥」
「お、おい怪獣王サマ、アンタこのままだと窒息するって! くぅ……ッやべぇっ♥」
上からニとサンが喘ぐのを尻目に、ひたすら口内の性器を攻め続ける。
(……どうした、先程まではもっと余裕そうだったではないか?)
懇願を無視してさらに先端を強く吸い上げると、またもや両者から悲鳴のような声が響き、上体を支えている筋肉質な太腿がガクガクと震えた。
当然ながらイチも例外ではなく、噛み締めた牙の隙間から荒い息遣いを漏らしている。
「んぅッ♥ ふ…ふふっ、仕返しのつもりか? はしたなくしゃぶりつきおって……予想外にも程があるぞ」
尊大な言葉とは裏腹に、快楽に潤んだ黄玉色の瞳がこちらを捉えていた。
(我慢できるのも、もう少しのようだな)
そう確信しつつ舌と粘膜を駆使しながら、さらに敏感な箇所をぬるぬる♥と責めていく。魔羅が時折暴れるが、粘膜の檻で制止させてしまえばこちらの手中に収まったも同然だ。
「く…んん゛ッ、ぐうゥ……んむ、んぐォッ♥ じゅぷ……っ♥」
粘ついた雫が舌を伝い、喉を通り抜けてゆく。それが、今まで自分の体内を蹂躙していたものだと思うと──堪らない。
「んっ……♥ ちゅぷっ……んふっ……♥」
溢れ出てきた苦い蜜を余すことなく飲み干そうと、何度も首を上下に振り、舌で掬い上げるようにして嚥下する。
どぷん。
飲みきれなかった粘液が飛沫となり、口の端から零れてタイルの表面に滴り落ちた。
もっと、もっと。このままぶち撒けてしまえ。そうすればすぐ楽になれる──そう訴えるように、ギドラを仰いだ。
直後、もとい案の定三つの喉が一斉に詰まり、短い咆哮が天井に響き渡る。
「く、おぉ…ッ! 射精るぅ……ッ!!」
瞬間、熱くてどろりとしたものが、上顎から舌先、喉の奥へと叩きつけられる。
びゅるるるっ……!
喉奥に流れ込んでくる濃密な白濁を、吐き出すことなど許されない。
(もっと……注げ……!)
この雄の獣慾を、すべて胃の中へ納めたい。
さらに手で扱いていたもう一本が釣られて射精し、顔面や手に容赦なく降り注いだ。
「―――ぅあ…ッ、んぐッ……ごくッ♥ ぅびゅうぅっ♥」
雄臭い芳香が五感を蕩けさせる。
視界が白濁の奔流で満たされるのと同時に、腹奥で渦巻いていた衝動が堰を切り──魔羅に触れていないまま、儂もまた絶頂を迎えた。
「がふっ、ゔぅ…っ!♥ んはぁ………♥♥」
口内からゆっくりと魔羅を抜き、裏筋へと唇を寄せる。
「ン゛ッ♥ ぢゅぷ……っ♥ は…ァ、ちゅぷ……れろ…はぁ……っ♥」
唾液を絡ませ、丹念に舐め回していく。その様子を見てニが感嘆の声を漏らす。
「や…やるじゃねーか、元怪獣王サマ。まさかここまでとはよ」
軽口を叩かれようとも、意に返さない。ただ、もっと味わいたい。
牙を立てぬように慎重に口を窄め、じゅぽっ♥ ぐちちぃっ♥ と淫らな音を立てながら、ピストンを繰り返す。
亀頭を吸い、尿道を舌先で穿ち、また吸い付く。
「ぐぅっ……あ…♥ そ、その辺にしておいたらどうだ? 我を悦ばせようと必死になるなんて……」
何を言われようと、もっと欲しい。
先程のように虚を突かれたかのような──あの愛しくも憎たらしい番の痴態を、もっと見たい。ならば、どうすればいいかは明白だった。
ゆっくりと立ち上がり、イチと目線を合わせる。
「………ギドラ」
「あぁ、判っているさ。またシたくなってきたのだろう。それなら―――ッ!!?」
言葉を最後まで聞くことなく、黄金色の巨体を押し倒す。
ズシャァンッ!!
人間がここにいれば呆気なく転倒しかねない様な振動と衝撃を伴い、二体の重みで石造りのタイルがひび割れるほどだった。
「待て……! 何のつもりだ……!」
下から抗議の声が上がるが、答える必要はない。
(鎮める……この身を、この心を……)
願うのはただそれだけ。欲望のままに屹立した双頭男根を後孔にあてがい──躊躇うことなく、腰を落とす。
「ふああぁ……っ!! あ、あうぅ、んお゛ォッ……♥」
ぐぶっ……ぐぶぐぶっ……!雄々しく反り勃った怒張が、ずぶずぶと腸内を貫く。
もはや女性器宛らに解されきった肉孔は厭らしく絡みつき、括約筋がぎちぎちと締め上げる。だが、それ以上に──快楽の渦が儂の思考を侵していく。
もう、止まれない。合図もなく屈強な太股を動かし、腰を高く上げては勢いよく突き落とす。
ズチュッ♥ ズチュズチュッ♥
「あぁあっ、んあッ、はひぃいいっ♥ 奥までくるぅっ……! おお゛ォォっ♥♥」
儂の中を埋め尽くすギドラの陰茎は衰えることなく、脈動を続ける。それに呼応するように、内壁もまた収縮し、楔を締め上げていく。
(嗚呼、これだ。この感覚こそが至福なのだ)
そう思った瞬間には、すでに真っ当な思考を紡げなくなるほどに意識が飛びかけていた。
「く…うぅっ、随分飛ばすではないか…! 生き血の効果がここまで強いモノだとは思わなかったぞ?」
「余裕扱いてる場合じゃねーぞ、兄貴! うっ、このままじゃ俺ら搾り取られ過ぎて、気絶しちまうかも…」
「ひうぅっ♥ だめ……ゴジラ、もう少しペース落としてってばぁ!」
だが、奴らの悲鳴など聞く耳を持たない。むしろ、それすらも快楽を煽る。
ズチュッ♥ ズチュズチュッ♥ズコズコと肉孔で仇敵の魔羅を扱き続ける。もう慣れた感覚なのに、唯一できた反撃故に自ずと速度が上がってしまう。
「ふひぃっ♥あひっ、そこっ♥♥ イっ…きもちいぃっ♥」
「……くっくく、まるで盛りのついた雌犬だな? 貴殿から乗っかってきた以上は覚悟しろよ…!?」
ギドラが怒り半分で嘲笑ってくる中で下から乱暴に穿たれ、さらに高い声を上げさせられる。淫靡な水音が浴室中に響き渡り、異様ともいえる程に快楽の熱気が渦巻いていった。
「んふぁああっ、はへぇ♥ あァ…っ♥♥ ギド、ラぁ……っひぐうぅぅぅっ♥♥」
ガクンッ――!!
下から駄目押しと言わんばかりのピストンを受け、全身が大きく仰け反る。それに伴い、扱かれてもいないというのに儂の魔羅が脈打ち、先走りを噴き出した。
その下でニとサンが「もう無理」だの「ちょっと速度を…」などの泣き言が聴覚に届いた刹那ぞくぞくと沸き立つ快感が全身を駆け巡り、ついに理性が崩れる。
「う……んぐっ、はぁ…♥ ギドラぁ、好きぃっ♥♥ もっとぉっ、めちゃくちゃにしてぇえっ♥♥♥」
半ば自暴自棄気味に咆哮すると、奴は一瞬驚いたように目を丸くし――次の瞬間、心底嬉しそうな笑みを見せた。
「クッ、ハハッ……! やはり良い声を出すようになったではないか……貴殿との勝負はこれだから止められないのだ!」
「あうっ♥あはあぁっ!♥♥ しゅごいっ、あづいぃ……ッ♥♥♥♥」
一向に交わらない会話。身体の奥を叩きつける激しい衝撃に、背を仰け反らせながら体表が鮮やかな桃色に灯る。
(ああ、もう……止まる訳にはいかない……!!)
どぷっ♥けたたましい水音とともに、肉孔の奥で凄まじい量の精液が勢いよく噴き出す。
「ぬ、ぅ…!!」
下の方からギドラの呻き声が漏れた。この疲れ知らずにも、ついに限界がきたか?
だが実際には奴の肉棒はまだ硬く、熱を孕んだままだ。という事は、まだ愉しめるという訳だ。そんな衝動を抱えたまま、どちゅどちゅと自らの後孔を責め立てる。
「あ゛っ、あへぇえ〜っ♥♥ ギドラのがまだ硬くて強くて、っこ…腰が止まらぬぅっ♥♥」
「ぐッ…気に入った様で何よりだが、っはぁ…あまり無理はしない方がいいぞ? せいぜい後処理程度に留めておけ」
そう言いつつもイチもまた快楽を求め、儂に負けじと激しく腰を突き上げてくる。
そのおかげで奴のモノが擦れ、儂はますます興奮を高め――甘えに甘えた咆哮が自ずと漏れ始める。
「んあ゛あぁっ♥♥ っそ、そんなに強くされたらぁっ……♥ あひッ…んぐうぅうっ♥♥」
ぐにぐにと腰を回し、緩急をつけて中出しされた雄汁を掻き混ぜる。そのたびに肉襞が激しく収縮し、まるで好物を頬張るかのように奴の魔羅を締め上げた。
「ふ……っはは、流石は我が好敵手よ。こうまでして堕としてもまだ足りぬか…」
イチの声がどこか興奮気味に震える。
「あんっ♥ はぁああ……はぁ……♥」
だが、そんな言葉すら今の儂には届かない。これまでの恨みも絶え間ない快楽の渦の中で霧散し、ただ夢中で肉棒を抽挿し続ける。ばちゅばちゅと水音を立てながら、時折肉縁が切れるような感覚があるものの、生き血の効果で即座に再生し、また激しく交わり始める。時折耐えられないのか、ギドラの腹板がびくりと波打つ。
それを見て、優越感が込み上げた。
ぐぼっ……!
さらに深く突き入れると、イチが初めて苦痛に悶えるかのような声を漏らした。
「く、ぁあっ…少しくらい加減したらどうなのだ? 貴殿の、欲情しきっているその様子では……ぐぅぅっ!」
ついに、偽りの王が弱音を吐いた。
今まで決して隙を見せなかったギドラが、こんなにも切羽詰まった顔を見せるとはさっぱり想像すらしていなかった。同時に今、目の前にいるギドラの姿がいつも以上に艶やかに見えて、もっとこの表情を見たい。弱らせたいという獣の欲求が、すべての理性を焼き尽くす。その証拠に背鰭も体表も、網膜を突かんばかりの眩いマゼンタ色に染まる。
「どうした? もう限界か?」
そう嘲るように囁きながら、ぎゅうと内壁を締めつける。
「あれだけ偉そうに振る舞っていたくせに……もう出し尽くして、立つこともできぬのか? 偽りの王よ」
「くっ……貴様……」
「あぁ?」
牙を見せてニヤリと笑い、腰を使って踊るかの如く前後にくねらせてはぐにぐにと揺らす。
「まだ終わりではないぞ、ギドラ……其方こそ、この欲情が冷めるまで最後まで付き合ってもらおう」
瞬間、ギドラの三つの首が臆したかの如くビクリと震える。
「ぐ……ッ!? ま、待て……」
「待て? 其方にそんな言葉が似合うとはな?」
「ッ……っ!!」
ついさっきまで支配されていたはずの儂が、今度は支配する側に回る。余りにも強烈な優越感に背鰭がビリビリと震え、下腹部の動きはますます大胆になっていく。
「ぐ、ぁあ……ッ!?♥♥」
ひっきりなしに漏れるギドラの喘ぎ声に緩い恍惚を覚えつつ、そしてニとサンの首をぐっと掴んでタイルに叩きつけたのを合図に腰の動きに緩急をつける。
当然ながらイチも負けじと突き上げるが、すでにこちらから何度も搾精されているせいか動きは鈍い。その隙を狙い、再び陰茎をめいっぱい咥え込むと粘膜が擦れるように、ぐちゅりと音を立てながら上下する。
(もう少しだ……早く、折れろ……!)
祈るように動きを強めるとついに双頭の陰茎が肥大化し、どくどくと震え――迸る莫大な絶頂の中で確かに聞いた。
「くッ…!かはあ゛ぁあっ……!!♥♥♥」
三つの喉が掠れた悲鳴を漏らし、ギドラが仰け反る。浴室に満ちるのは粘液の水音と、乱れた吐息のみ。
「はぁー……はぁー……♥」
ついに――完全に、仇敵を搾り尽くした。優越感に浸るよりも、流石にこちらはまだ快楽の余韻に浸ったままで全身を不定期に痙攣させ、未だ熱を持った陰茎をビクビクと震わせる。
一方のギドラはと言うと、魔羅もろとも精根尽き果てたかのようにぐったりとして動かない。
今まで儂を圧倒していた巨躯は力なく仰向けに倒れており、時折痙攣しているかと思えば呼吸する度に胸板が上下に動いているのが見えた。
「……ギドラ?」
「ん、うぅ……」
念のため呼びかけてみると、返ってきたのは掠れた呻き声だけだった。
(完全に脱力している……今なら……)
今なら言えるかもしれない。もし、次に奴が目を覚ました時に「これ以上搾り尽くされたくなかったら、モスラに会わせろ」と。
(……うまくいくか?)
交渉が通る可能性は低い。だが、今のギドラの萎えた男根を見る限り確実に疲弊している。もし本当に搾り尽くされた状態ならば、多少は聞き入れる余地があるかもしれない……。
一縷の望みをかけ、心の中で決意を固める。低く唸りながらいつでも搾り尽くせる体勢に戻るべく、気だるさの残る膝を立てようとした瞬間――視界が暗転した。
「ッ!?」
こちらの尻尾がグイッと引き寄せられてバランスを崩したかと思うと、瞬く間に無理やりギドラの足許で仰向けにされていた。
(な……にが、起こった……!?)
突然の事態に現実が飲み込めない。もしかすれば、これは夢なのでは?そんな現実逃避を試みるが、全身を走る痛みが思考を現実に引き戻し、しかも散々注がれ続けた全身には力が入らず、ギドラから逃れることすらできない。
もがいている内に二とサンの首が儂の両手首に嚙みついて拘束し、眼前いっぱいに金色の巨躯が立ち塞がる。
「うぐっ……!」
「ふふっ…敢えて好きにさせていたとはいえ、これで勝ったつもりだったとはな」
地の底から響くような低い声が聴覚を焼く。並のタイタンなら間違いなく臆するであろう怒気が滲んでいて、ぞわりと全身の毛が逆立つ。
(馬鹿な……さっきまであれほど消耗していたではないか……!)
愕然としている儂とは対照的に、ギドラは先程の乱れようが嘘だったかのような平然とした表情を取り戻していた。
その上、驚愕でこちらが動けなくなったのをいいことに二とサンの拘束が解かれると、一斉にまだまだ甚振る気満々と言わんばかりに見下ろしてくる。
「あれだけで終わると思ったか、ゴジラよ。我は、一度喰らいついたら離さぬ主義だぞ」
「乗っかられるのはともかく、攻められるのは好みじゃねーんだよ。調子に乗った分、まーた泣かせてやるからな」
「君みたいな限度を超えたドスケベ怪獣には、何時間でも何日でも関係なくお仕置きしてあげるからねぇ~? 覚悟してよ」
各々の首からそれぞれ異なる声色で恫喝が浴びせられる。それぞれ口調は違えど、一貫して強烈な殺気が籠もっていて、並のタイタンならほぼ委縮してしまう程だ。これには流石に生き血の効果で昂った欲情すらも上回りかねない寒気が背筋を駆け抜ける。
僅かに臆した瞬間――こちらの尻尾が、さらに強く締め上げられた。
「ぐっ…離せ! 何時まで儂をこの淫辱に付き合わせれば気が済むのだ!」
「うん? 決まっているだろう……貴殿が我を心の底から“愛している”と認めるまでよ」
ふざけた事を、という言葉が口を突いて出そうになったが、ギドラが再び儂を凌辱するという事はまたも絞り尽くされるのを知ってやっているのだろう。それならば―――。
「っ……ならば、取引しよう」
「ほう……?」
三つの首が不気味に揺れながら、儂からの提案を噛み締めるように目を細めた。
「儂はこのまま……其方の伴侶として末永く娼館にいても良い。だが、頼みがある……モスラだけは解放してくれないか?」
言えた。これが最善の策とは思えない。
だが、相手を説得できる手段が他にあるだろうか?
(モスラさえ無事であれば、それでいい……)
100人の客を取ってこいと課した張本人に取引を持ちかける形となったが、その代償として、儂はこの地獄に囚われ続けることになる。
(――それでも、彼女の安全はようやく保障される)
そう思い込もうとした。
だが、どういう訳かギドラは何も言わなかった。ただ目を丸くして、じっと儂を見下ろすのみ。
(……なぜ、何も言わぬ?)
心臓の鼓動が、不快なほどに大きく鳴る。もしかして条件が通らなかったのか?
不安が増幅される中、ふとイチの瞳が細められたのを合図に二とサンが噴きだした瞬間――。
「くっ……ふっははははははッ!!!」
轟くような笑い声が、浴室中に響き渡った。それも、ただの嘲笑ではなかった。
まるで荒れ狂う嵐と雷鳴そのもののような、爆発的な狂笑。三つの咽喉が同時に轟き渡ると周囲の空気が震え、壁ごと崩壊しかねないほどの音圧が叩きつけられる。それは、儂の提案が「滑稽で仕方ない」という反応だった。
「貴様の浅知恵で、我と交渉するつもりだったのか? なんと笑える……!」
イチの首がゆっくりとこちらに近づく。
吐息が鼻腔にかかる。温かいはずなのに、氷のような悪寒が背筋を走る。
そこから便乗するように、ニとサンもまた嘲り小馬鹿にするような言葉を投げ掛けてくる。
「俺らも随分ナメられたもんだなぁ。あのお節介な女王サマを解放したら、真っ先にこっちに翔んでくるだろうに」
「はぁ〜あ、ほんっと浅はかだよねぇ?余りにも絶頂しすぎて、思考回路が鈍っちゃったのかな〜? ねぇ、元・怪獣王サマ♥」
「……っ!!」
頭の中が、一気に冷えた。
(……そうか、そういうことか……!!)
生き血を手渡すのと皮切りに、絞り尽くされることも交渉を持ち出されることも、全て奴の想定内だった。それもこれも、儂を更に快楽漬けにするための策略に他ならない。
更に追い打ちは続いた。
「貴様は己を差し出し、愛しき女王サマを逃がすつもりか?そんな事は、この我が許すとでも?」
「……っ!」
「心の底から我を受け入れるその時まで、何も解放などしない。……そう、何もな」
心臓へ直接突き付けるような告白と併せて、精神ごと押し潰しかねない程の圧迫感が儂の全身に覆いかぶさる。
逃げ場はない。もはや、どの道も閉ざされたも同然だった。
そこへ、
「なぁ、兄貴……」
何かを思いついたらしき様子のニがイチへと顔を寄せて何かを囁いた。途端に、それを受けたイチの瞳が、ゆっくりと細められる。
そして――
「なるほど……」
くつくつと喉の奥で笑いながら、再び鎌首をすっと擡げる。
「それとも……もし我がここで、号令を放ったらどうなるか、分かっているだろうな?」
アルファコール。それは儂を含めた“王”の立場を有する強力なタイタンが遠くにいる彼らに対して発することのできる命令信号だ。
もし本当にギドラがこの場で高々にその咆哮を発すれば、娼館には数多の怪獣が殺到する。無論ただの客としてではなく、生殖本能を剥き出しにして我々を貪るために。
「ま、まさか……」
「流石に気付いたか。我がその気になれば、そいつらを直々に呼び寄せることもできるのだぞ」
ギドラの金色の瞳が細められ、ぞわりと背筋を撫でるような声が続く度に時折含み笑いが漏れる。
「此処で“接客”に励んでいる同僚共も我が“軍勢”に可愛がられることになるだろうな……何時ぞやの貴殿のようにな」
「……っ!! 貴様……ッ!」
「何もおかしなことはない。ここはタイタンも人間も種族問わず受け入れてくれる怪獣娼館……責任を持って客に奉仕するのが役目であろう?」
その酷な問いは、あまりにも冷たく響いた。まるですでに決定事項であるかのように。
皮肉でもなく、冗談でもない。ギドラは本気で、ここをタイタンの巣窟とするつもりなのだ。
無意識に喉が震えた。
(そんなことをされれば機龍やシーサー、スペースゴジラたちも……!)
脳裏に浮かんだのは、娼館でそれぞれの理由を持ちながら業務に励む同僚たちの姿だった。
血の気が引く。ギドラのアルファコールでタイタン達が一斉に押し寄せた場合、破壊だけで済むはずがない。
彼らもまた、かつての儂と同じように嬲り尽くされ、蹂躙される。
それだけは何としてでも防ぎたい。ここは娼館のルールに反してでも抵抗せざるを得ないと、背鰭をマゼンタ色に―――純粋な防御本能として輝かせた瞬間だった。
「おい早よここを開けんかい、ボケェ!!」
突如として轟いた怒号と、浴室の扉をどんどんと叩くけたたましい音によって意識が現実に引き摺り出され、瞼が跳ね上がる。
(誰だ? まさか呼ばれたタイタンが乗り込んできたのか…?)