古代冷凍怪獣の官能リラクゼーション*壱

こんにちは、或いはごきげんよう。私は冷凍怪獣のタイタヌス・シーモと申します。
コングさんとゴジラさんの手により、古来から長きにわたって私を痛めつけ苦しめてきた暴虐邪知の王・スカーキングから解放されてやや経ちますが、今ではグレイトエイプの一族を守る守護怪獣として平穏な日々を送っております。
時に一族を狙う外敵を追い払ったり、元気いっぱいで好奇心旺盛な子供達と戯れたりと、私達を押さえつける存在がいないのどかな毎日を過ごしている内にコングさんとの絆も随分深まってきた気がしますが、まだ私は本当の思い―――スカーキングの籠絡から私を救い出してくれた彼を心から愛しているということを打ち明けられないままで居ました。というのも、こちらはコングさんと遥かに歳が隔たれている上に身長は私の方が高く、しかも種族の壁がある以上実際に告白すれば当人に嫌われてしまいそうな気がして、なかなか口には出せませんでした。

コングさんが時折見せる憂いを帯びた表情を見る度に、こちらからも大事なことを切り出せないもどかしい日々の中、ある日私の小さな親友でありながらコングさんの(自称)相棒であるグレイトエイプの男児・スーコ君が私に相談を持ち掛けてきました。

「あのさ…コングの兄貴ったら、この間若い雌コング達に迫られてたんだけど、顔を真っ赤にしてカチカチに固まっちゃってたんだよね~。あんな強くてカッコよくて凄くモテそうなのに、ビックリしちゃったよ」
「それは初耳ね…詳しく教えてくれないかしら」

ああ、やはりあの雄々しい立ち振舞いからして予想は付いていましたが、遂に異性から迫られる日が来たんですね。動揺を隠しつつスーコ君から話を聞いてみると、どうもコングさんはずっと独り身だった為にこれまで異性と親密になった経験がないらしく、雌の色香に誘惑されると全身が凍らされたが如く硬直してしまうようです。
スカーキングが滅んだ以上、コングさんはホロウアースを統べるグレイト・エイプ族の王としてこれから誇りを持ってどっしりと構えていなければなりません。なのに、種族を存続させるに至ってそのような態度では流石に考えものです。

「それでさ、シーモおばちゃん。兄貴とは歳離れてるけど仲良いんだろ? 何とかならないかな~」
「そうねぇ……でも私は高齢だし、彼に相応しいのは若い子の方がいいのかもしれないわ」

そう言って首を傾げた途端、何やら首筋が少し痛みました。苦痛に顔を歪ませる私をスーコ君が心配してきします。

「シーモおばちゃん、どうしたの?」
「ちょっと首が痛むのよ……このところ無理し過ぎたのかしら」

咄嗟に首を揉みましたが、やはり突っ張っている感覚は消えません。試しに腕を曲げて肩を回してみると、やはり少し痛みが走ります。
長い間スカーキングの下で拘束されていたのもありますが、急にのどかな毎日が訪れた反動でまさかこんなに体が凝っているとは自分でも驚きつつスーコ君の方に目を向けると、案の定彼は仰天した様子でこちらを凝視していました。

「えーっ!?そんなのダメだよ!早く治さないと!」
「いいわよ別に。ただの筋肉疲労なんだから」
「でも、放っといたら酷くなるかも……」

遠慮する私と裏腹に、スーコ君はすっかり慌てふためいています。確かに彼の言う通り、このまま放置したら余計痛みが酷くなるかもしれません。自分で解そうかと思いましたが、ここまで痛むとなればいっそのこと誰かに按摩をお願いしようかと考えた矢先、スーコ君は何かを思いついたかのように目を輝かせます。

「そうだ、兄貴をここに呼んでみようよ! 相談しながらマッサージしてもらえればきっと上手くいくはずだぜ!」
「え? でも急に呼んじゃって大丈夫?」

スーコ君の突然の提案に私は戸惑いました。確かにコングさんは普段無愛想ながらも私に対して手を差し伸べてくれた相手であり、今や大事があれば好奇心旺盛なスーコ君も連れて広いホロウアースを共に駆け巡る仲間という関係です。
ですが、一方で彼が王としての責務に追われ出してからまだ日も浅い上に、いきなり二人っきりになるというのはひどく緊張します。

「今兄貴は住処で休憩中だし、すぐ来れると思うよ。うん、おれに任せて!」
「なら……貴方にお願いするわ」

スーコ君は妙に張り切っていますが、本当に大丈夫でしょうか?でも、この凝りをほぐすのには誰かの力強いマッサージが一番ですし、ここは彼を信じてみる事にしました。

(コングさんにこんな頼み事したら迷惑だと思われてしまうかしら……)

心中でモヤモヤを巡らせても晴れる事は無く時が経つのは残酷なもので、数分後―――スーコ君と入れ替わりに件の殿方・コングさんが私の棲家にやってきました。

 

「よお、シーモ。スーコから聞いたが話ってなんだ?」

相変わらずぶっきらぼうなコングさんですが、彼とはそれなりの付き合いなので挨拶も同然です。寧ろこれから二人きりになるというのに、先程から胸が高鳴って仕方ありません。
あの子からの提案とはいえ、いざ目の前に来ると緊張して言葉が出なくなりました。しかし、ここで怖じ気づいてはいられません。一旦コングさんを家に入れると意を決して事情を説明します。

「いきなり呼び出してしまってごめんなさいね。どうしてもお願いしたい事があって…」
「何でも言ってくれ。俺が出来ることならやってやるぜ!」

ああ、この雄弁な頼もしさ……初めて会った時と変わっていません。冷凍怪獣なのに胸がジクジクと熱くなる中、私は溜息交じりに重い口を開いて切り出します。

「実はここ最近、体が酷く凝ってしまって…貴方に全身のマッサージをお願いしたいんです」
「おぅ、任せと……えっ!? ま、マッサージって…その、アンタの体に直接触る事になるんだよな? オレ、そういうの慣れてねぇし……」

想像こそしていましたが、案の定コングさんは先程の飄々さから一転して明らかに動揺しました。それも誤魔化すかの如く頬を掻いている時点で、余程重症なのが伺えます。

「無理にとは言いません。だけど、あの子から聞きましたよ。貴方今まで異性と縁がなかったから、迫られると固まってしまうって」
「なっ、アイツそんな事言ってたのかよ!? クソっ、スーコの奴め……」

「顔合わせたら覚えとけよ」等と小声で悪態を吐きますが、私は彼を少しでも宥めるべく微笑みながら更に続けます。

「貴方はグレイトエイプの一族を統べる身である以上、異性とのおつきあいにも慣れてもらわなければなりません。しかし、慣れるといってもその様子だと難しそうですし、これはいい機会ではありませんこと? コングさんにとっても良い練習になりますわ」

自分でも大胆な発言をしてしまったと思いました。しかし、内心は私に触れることでコングさんに少しでも女性に免疫をつけてもらうのは勿論、彼とじっくり二人きりの時間を愉しみたいという気持ちもあります。

「そ、そりゃあそうだけどよ……いきなり触れるのはちょっとな…」
「あら、私を信頼してくれていないのですか?」
「そうじゃねぇけど、その…やっぱり不安だ」

そう言ってコングさんは目を逸らします。その仕草が如何にも少年っぽくて何とも可愛らしいと思いましたが、何時までも押し問答を繰り返しているわけにはいきません。やがて、こちらをじっと見据える視線に折れたのか、コングさんは一頻り私の全身を眺めた後、決心がついたかのように目を瞑ってひとつ深呼吸をします。

「……よし、判った。アンタがそこまで言うなら、やってやろうじゃないか。アイツから聞いた所凄く辛そうだしな」
「本当? ありがとうございます!」

どうやらコングさんも覚悟を決めたようです。それを聞いた途端、私は嬉しくなってつい声を弾ませてしまいます。

「ただし、これはあくまでマッサージだからな? 変なことはしないし加減はするけど、もし痛いとか触られたくない所とかあったら遠慮なく言えよ」
「はい、承知しておりますわ」

多少強引かつ唐突な切り出しで引かれると思いましたが、コングさんは案外すんなりと了承した様子でホッとしました。良かったです。
場所を変え、私の寝室に案内すると予めタオルを敷いた布団の傍らに置いてある小さな油壺を指し、コングさんに伝えます。

「コングさん、マッサージの際はこれを塗って下さいね」
「お、おう…って、これ油か?何かいい匂いだな。なんか落ち着くっていうかさ……」
「ええ。この間家に来たモスラさんから、『疲れが取れる調合オイルです』とおすそ分けしてもらったんですよ」

香油入りのそれを彼に手渡す間に、花の香よろしくほんのりとした優しい香りが部屋に漂っていきます。如何にも彼女らしい慈愛に満ちた贈り物に私も思わず笑みがこぼれる中、彼はふとこんな事を呟きます。

「……っと、味わってる場合じゃないな。早速始めるぞ」
「はい、宜しくお願いしますわ」

私からも一つ答えると畳の上で一旦壁の方を向き、青袴の結びを解いて下へずらしていきました。そこから衣擦れの音を立てつつ白い巫女装束と肌襦袢を脱ぎ、剥き出しの肩が露わになった所でコングさんは思わず声を上げます。

「ちょ、ちょっと待てよ!いきなり全部脱ぐのかよ!?」
「ええ。オイルマッサージは服を脱いで行うものだってモスラさんから教わったので……」

実のところ、私もコングさんに筋肉質な素肌を見られるのは恥ずかしかったのですが、これはコングさんの悩みを解決する為だと自分に言い聞かせ、淡々と足袋とサラシを外すと下着をつけた以外はほぼ生まれたままの姿になります。

「そうなのか…まぁ、確かにオイル使うんだし、その方がやりやすいもんな……」

コングさんの声が小さくなり、振り向くと顔を赤らめて目を泳がせています。どうやら彼は思ったよりも女性に対して免疫がないらしく、私のような年長相手でもひどく緊張してしまうようです。
その反応にまた微笑ましさと僅かな悪戯心が沸き上がり、私はにこりと笑ったまま続けます。

「あら、ひどく緊張なさっているのですね。ご安心下さい。今では私と貴方の二人っきりだし、いっそのことゴジラさんをお相手していると思って下されば……ね?」

ゴジラさんの名前を聞いた途端、コングさんの顔が怒りと驚愕を交えた表情になりました。やはりまだ彼はゴジラさんに対して複雑な感情を持っているようですが、それはもう過去の話。互いの種族に深い因縁を残した元凶のスカーキングを討ち、やっとお互いの線引きを終えた以上はいつまでもギスギスした関係を払拭してもらいたいものです。

「はぁ?何でそこでアイツが出てくんだよ!?」
「あら、だってコングさんはあの人が未だに苦手なのでしょう?だったら同じ爬虫類である私の体で彼の弱点ツボを研究すればよろしいかと…」
「ぐっ……あぁ分かったよ!アンタの体はあの堅物ジジィとでも思って圧していけばいいんだろ!?」
「ふふっ、そういう事です。では改めて始めましょうか」

こうして少し一悶着ありましたが、何とかマッサージにこぎ着けました。その事を嬉しく思いながらも遂に下着を脱ぎ、肝心な箇所を手で隠しつつ布団の上へうつ伏せになりました。その最中でもコングさんは顔を真っ赤にしつつ目を逸らすかのように明後日の方を向いていますが、初めて見る異性の素肌が気になるらしく、ちらちらと視線を向けてくるのが分かりました。

「……っ、そ…それじゃあ行くぞ?」
「はい、それではよろしくお願いします」